輪廻の風 (52)


「うわああぁぁ!!」
「やべえ落ちるぞ!」「逃げろぉ!!」

炎上し、蛇行しながら緩やかに降下していくインドラから、旧ドアル軍の兵士たちが次々と脱出していた。

あらかじめ身につけていた緊急用のパラシュートを使い、大騒ぎをしながら続々とインドラから飛び降りていく。

「おい!何があった!?え、落ちてんのかこれ!??オレ様を解放しろ!!」ダルマインは為す術もなく、独房で1人パニックになりながら喚いてる。

別の独房に収監されていたラーミアは、独房内のベッドでうつ伏せになったまま微動だにしていなかった。
恐怖を感じていながらも、潔く自身の運命を受け入れようという姿勢だった。

コックピット内では、爆風によって機体が大きく揺れたため、ギルドは体勢を崩して頭をぶつけて気絶していた。

「何があったか知らねえが、このままじゃ墜落するぜ?早く逃げろよお前ら。」
ノヴァはコックピット内に備えつけてあった緊急用のパラシュートを二着、エンディとラベスタに向かって投げた。

「ノヴァ、お前…。」

「ラベスタ、今まで散々振り回しちまって悪かったな。これからは自由に生きろ。」

「嫌だ。1人で死のうとするなんて卑怯だよ。」

「分かんねえ野郎だなてめえは!」
ラベスタとノヴァが口論を始めた。すると、エンディがノヴァの顔を思い切り殴った。

「うじうじしてんなよ!こんな事しても何も変わらないって、本当はわかってんだろ!?」

「てめえ…なにしやがる!」
ノヴァは起き上がり、エンディの顔を殴り返した。そして、頭上に強烈なかかと落としを炸裂させた。

「本当は心細いんだろ?だったら仲間に頼れよ。」エンディがそう言うと、ノヴァはエンディの胸ぐらを掴んで顔を何発も殴った。

「うるせえ!てめえに何が分かるんだよ!ずっとバレラルクを恨んで生きてきた…ガキの頃からずっと、奴らに復讐する為だけに生きてきた!それが全部誤解で、本当に恨むべき相手だったドアル人と手組んで…こんなみじめなことあるかよ!?あぁ!?ケジメつけるならボスだった俺が、奴ら道連れにして死ぬしかねえだろ!?」
ノヴァは自分自身に対する怒りで正気を失い、とりつく島もなかった。

「ノヴァ落ち着いて。道連れも何も、旧ドアル軍の奴らはみんな脱出しているよ。このままじゃ犬死だ。」ラベスタがなだめようとするも、ノヴァの耳には届かなかった。

すると、エンディはノヴァに頭突きをした。
ノヴァはコメカミから少し血を流し、床に尻もちをついた。

「どうして自分から孤独になろうとするんだよ。せっかく友達がいるのに…。」
エンディはとても悲しそうな顔をして、ノヴァを見ながら言った。

「は?何言ってんだ?」

「ノヴァ、お前が死んだらラベスタは一人ぼっちになっちゃうんだぞ。お前ら子供の頃から友達なんだろ?」

「エンディ…。」ラベスタは遠い目でエンディを見つめながら呟いた。

「ノヴァ…辛い時、苦しい時、誰かに救いを求めることは恥ずかしい事じゃないよ。逃げる事も、泣く事も恥ずかしい事じゃない。1番恥ずかしいのは、自分に嘘をついて生きる事だ。」エンディはノヴァに、笑顔でそう言った。赤く腫れ上がり血まみれだったが、優しい笑顔だった。
ノヴァは、エンディの優しさに心が打たれてしまった自分に気がついた。

「いつでも頼れよ。俺たちもう、友達だろ?」エンディがそう言い終えると、ノヴァの両目からツーと静かに涙が流れた。

「少し前の俺だったら、お前と一緒に死のうとしていたかも。だけどルシアンが言ったんだ、ノヴァと仲良くしてねって。だから俺決めたよ、これからも生きようって。ノヴァと一緒に、子供達の未来を守れる大人になれるように強く生きようって。」
ラベスタがノヴァに駆け寄って言った。ラベスタはこんな時でも無表情だった。

「ラベスタ…エンディ…、俺を、助けてくれ…!一緒に戦ってくれ…!」
ノヴァは大粒の涙を流しながら、震える声でそう言った。

「当たり前だろ!一緒にバレラルクを守ろう!」エンディがそう言うと、ラベスタは同意するようにコクリと頷いた。

そして3人はコックピットを出た。
ノヴァとラベスタに案内されながら、エンディは機内の独房のあるエリアへと向かった。

しかし、10部屋しかない独房のどの部屋を見ても、ラーミアはいなかった。

「どういうことだ…まさかもう逃げたのか?」エンディは訝しげな表情を浮かべ、外を見た。

「あっ!!」

すると、ダルマインがラーミアを抱えながらパラシュートを使って宙を舞っているのが見えた。

「火事場の馬鹿力ってのはすげえな、ドアぶち破ってやったぜ!」
ダルマインははしゃいでいた。

「提督さん、どうして私を助けてくれたの?」ラーミアが疑惑の目を向けて聞いた。

「炎上するインドラ…ラーミアを見捨てて逃げ惑う旧ドアル軍…そんな中、オレ様がお前を助けてアズバールに引き渡せば…オレ様の株は鰻登りだぜぇ!!」
ダルマインは下品な高笑いをしながら言った。ラーミアは汚物を見る様な目でダルマインを見ていた。

すると、遥か遠くから木のツルが触手のように勢いよく伸びてきた。

エンディは、その木のツルがラーミアを狙っていると確信した。

すると、自分の持っていたパラシュートをノヴァに渡した。

「おい、お前何する気だ?」

「ノヴァ、ラベスタ、ダルマインからラーミアを守ってやってくれ。」
エンディはそう言って、窓ガラスを割って飛び降りた。

そして木のツルがラーミアを掴もうとする寸前に、ラーミアの前に出た。
木のツルはエンディの腰に巻き付き、勢いよく縮んでいった。

「エンディ!?」
ラーミアが驚いて声を上げると、エンディは地上の森の奥深くへと引きずり込まれていった。

インドラは人気のない森へと墜落し、大爆発をして木っ端微塵になった。

ノヴァとラベスタはパラシュートを使って飛び降り、ダルマインを囲んだ。

「え!?お前ら!なんでここに??」

「てめえがラーミアに手出ししねえように見張ってろって、エンディに頼まれたんだよ。」

「エンディ、大丈夫かな。」
ラベスタはエンディが引きずり込まれた森の方角を見ながら呟いた。


「久しぶりだな、アズバール。」

「気安く俺の名前を呼ぶな。まさかてめえみてえな小物に二度も邪魔されるとはな。また風穴開けてやろうか?」邪悪な顔で笑いながら言った。

「もう食らわねえよ。お前が全ての元凶だろ?俺がここでぶっ飛ばしてやる!」
エンディが勇敢にそう言うと、アズバールはとても不愉快そうな表情を浮かべた。

エンディとアズバール、この2人が再び対峙した。


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