輪廻の風 (37)


「ぎゃあああああっ!痛えよぉ〜!!」
ダルマインは悲鳴をあげてのたうち回っていた。

エンディとロゼは激痛に耐え、涙を流しながらノヴァ達を追っていた。

「ちっ、催涙スプレーとはナメた真似してくれるぜ。それにしてもあのチビ、イカついスピードだったな。全く反応出来なかった…。」

「ロゼ王子、俺あのノヴァって人悪い奴じゃないと思う…。戦うよりまず、お互い頭を冷やして話し合ってみませんか…?」
エンディが言った。

「話し合いに応じるような奴らならそうしたいぜ。だけどあいつらは旧ドアル軍と共謀して何か企んでいるかもしれねえ。そしたらまたラーミアが狙われるかもしれねえぜ?」ロゼがそう言うと、エンディは深刻な表情を浮かべた。

「ラーミアや他のみんなに何かあったらもちろん戦います。だけどその前に、どうしてもあいつと一度話し合いたい!」
エンディはそう言うと、走る速度を上げてノヴァ達を追った。

ノヴァ達はプラチナグリルのホールを走り抜けて外へ出た。
突然ガラの悪い集団が乱入してきて、ホールは騒然とした。

「何だあいつら…?」サイゾーは呆気に取られていた。そしてその集団を追って外へ出たエンディとロゼを確認し、状況を把握した。

「まさか…おいクマシス!俺たちも追うぞ!」サイゾーは言った。しかしクマシスはどこにもいなかった。

そして、カインを呼びに急いで厨房に入った。

すると、クマシスは厨房で寝っ転がっていた。どうやら店の酒を勝手に飲み、酔っ払っているようだ。

「おいクマシス!やめねえか!」シェフが声を荒げて言った。

「うるせえよ!どいつもこいつも偉そうに店員を見下しやがって!店員だって人間だぜ?客の奴隷じゃねえんだよ!店員に敬意を払えねえバカは外食するな!!」
怒鳴り散らしているクマシスに、コックは皆怯えていた。カインは白い目で見ている。

「なにしてんだクマシス!今ロゼ王子とエンディがマフィアどもを追って外に出た。俺たちも追うぞ!カインも来い!」
サイゾーはそう言うとクマシスの腕を引っ張り、クマシスを引きずりながら走りだした。
カインもその後に続いた。

すると小太りの客が、走ってクマシスに近づいてきた。
「オカッパの兄ちゃん、さっきはごめんな。最近家に帰ると嫁と娘に罵られまくっててよ…ついイライラして八つ当たりしちまったんだ。許してくれ…。」

「うるせぇー!!」クマシスは小太りの客を思い切り殴った。

「おい何してる!さっさと立って自分の足で走れ!」サイゾーが言った。
そしてカイン達も外に出て、マフィア達を追った。

店員もコックも客も、全員口を開けてポカーンとしていた。

カイン達はエンディとロゼと合流した。

「ロゼ王子!奴らはどこへ?」サイゾーが言った。

「見失っちまった。先頭にオレンジ頭のチビが走ってたろ?あいつがボスのノヴァだ。」

「まさか、あんな子供が!?」

「ああ。お前ら、今日は悪かったな。もう遅いし帰って寝ろ。明日の昼ごろまた王宮に集合な?」
ロゼはそう言い残して帰ってしまった。

クマシスは真っ赤な顔でいびきをかきながら路上で寝ている。

「え、クマシスさん酔っ払ってる??」
エンディが言った。

「このポンコツ男は放っておけ。エンディとカイン、ロゼ王子がお前達に下宿用の部屋を用意して下さった。王宮の近くだ、今から案内する。」サイゾーが言った。

「ええ!それはありがたい!明日お礼言わなきゃな!」エンディはとても嬉しそうだった。

「おい、まさか相部屋じゃないだろうな?」
カインが不満そうな顔で言った。

「ちゃんと1人1部屋用意してある。部屋は隣同士だがな。早くついてこい。」

サイゾーに言われるがまま、エンディとカインは歩きだした。


ノヴァ達は、パニス町に密かに作った地下通路を歩いていた。
地下通路は暗いため、ここでも先頭の男がランプを手に持っていた。

「上手く撒けましたね。ところでボス…さっき機は熟したとおっしゃっていましたが…?」部下の1人が聞いた。

「そのまんまの意味だ。明日、王宮を攻め落とす。早く行くぞ、ラベスタの野郎が首を長くして待ってるはずだぜ?」
ノヴァはニヤッと笑いながら言った。

「王宮を攻め落とすって…無茶ですよそんな!」 「3将帥が出張ってきたら命はありませんぜ?」部下達はひどく動揺していた。

「腰抜けどもが、怖いなら逃げてもらって構わねえぜ?バレラルクの奴らが俺達に何をしてきたか思い出してみろよ。今こそ積年の恨みを晴らす時だ。」
ノヴァは憎しみに満ちた表情でそう言った。
部下達は皆、不安を隠しきれない様子だった。


「うおお、いい部屋だな!!」
下宿先に着いたエンディは舞い上がっていた。
部屋は6畳ほどで、決して広くはないが綺麗で、王宮近くという立地の良さに、かなり満足している様子だった。

エンディは部屋を出て、カインのいる隣の部屋のドアをドンドン叩いた。

「何だようるせえな。」
「カイン、腹減った。何か作ってよ。」
「ふざけんな、早く寝ろよ。」
カインは不機嫌そうな顔で、冷たく言ってドアを閉めた。

エンディは少ししょぼくれた様子で自室に戻り、横になって天井をぼんやり眺めていた。

「今度こそちゃんとラーミアを守るぞ。早く記憶も戻るといいなあ…。」
そんな声が、狭い部屋に虚しく響き渡った。




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