輪廻の風 (51)



ラベスタは燃料室のタンクや配線をジーッと見ている。

「ラベスタ、何してるんだ?」

「このUFOみたいな乗り物うざいからぶっ壊そうと思ってこっそり乗り込んだ。そしたらいきなり離陸したからびっくりしたよ。」
得意のポーカーフェイスでそう言ったラベスタは、全く驚いているようには見えなかった。

「えいっ」ラベスタはそう言って、真顔で配線を斬り始めた。
すると一瞬、機体が激しく揺れた。

「おいラベスタ!お前何やってんだよ!落ちたらどうすんだ!」

「そんなすぐ落ちないよ。それに落ちたとしても俺たちなら脱出出来るでしょ。」
ラベスタは落ち着いた口調で言った。

「バカ!!ここにはラーミアが乗ってるんだぞ!!」エンディはラベスタに向かって声を荒げた。


一方森では、ロゼとジャクソンが戦闘を開始していた。

両者一歩も譲らぬ攻防戦。
しかし、ロゼは少し押され気味だった。

ジャクソンは手強かった。
大刀を軽々と振り回す腕力、大木を一太刀で真っ二つにする攻撃力、それに何より、相当な場数を踏んでいる戦い方だった。

「さすがに強えな、首狩り。ところで何でインドラは飛んでるんだ?約束の時間はまだだろ?」ロゼは苦戦を強いられ疲弊しきっている様子だったが、必死に平常心を保ちながら聞いた。

「それはこっちが聞きてえよ。」
ジャクソンは苛立った様子で答えた。

「はっ、お前らギルドに捨てられたんだな?ところでアズバールはどこにいる?」

「これから死ぬお前にそんなこと教える義理はない。王子のお前の惨殺死体が見つかれば、バレラルクに動揺が走るはずだ。」

「なるほどな、確かにそうだな。その隙をついてアズバールは都落ちを狙ってるってわけか。」

ロゼがそう言い終えると、再び激戦が繰り広げられた。

ロゼが槍を大振りすると、ジャクソンはそれを避けてロゼの間合いに入り、首を狙った。

「もらった。」ジャクソンはニヤリと笑いながら言った。

「しまった…!」
万事休すと思われたが、エスタが2人の間に入ってジャクソンの攻撃を剣で防いだ。

ガキンッと大きな音が森に響いた。

エスタはジャクソンの腹部を蹴ろうとしたが、ジャクソンはそれをかわして後ろに引き下がった。

エスタ、ジェシカ、モエーネがロゼの前に立った。

「ロゼを殺りたいなら、まずは俺たちから殺すことだな?」エスタが言った。

「主を呼び捨てか、生意気なガキだな。」
ジャクソンはエスタを小馬鹿にしたような口ぶりで言った。

「若、私たちが命に変えてもお守りしますわ。それが王室近衛騎士団の使命!」
「同意するわ。ジェシカ、珍しく意見が合うわね?」

ロゼは無表情のまま下を向いている。

「ムカつくガキどもだな、4人まとめて殺してやる。」
ジャクソンが大刀を振り上げ、4人に向かって襲いかかろうと一歩前進しようとした次の瞬間、ロゼは大刀ごとジャクソンの体を槍で真っ二つに斬った。

それは、本当に一瞬の出来事だった。
腰から下を切断されたジャクソンは、地べたに這いつくばっている。
「な…にが、起…きた…?」
ジャクソンはそう言って息絶えた。

「お見事です!若!」
モエーネがそう言うと、ロゼは鋭い眼光で3人を睨みつけた。

空気はピリピリと張り詰め、沈黙が流れた。
エスタ達はとても緊迫した様子だった。

「俺はお前達の事を、自分の命を守るための盾だと思ったことは一度もない。俺のために命を投げ打つような行動や言動は今後一切許さねえ。いいな?」
ロゼが鬼気迫る雰囲気でそう言うと、ジェシカとモエーネは深く頭を下げ、緊張した様子で声を揃えて謝罪した。

「はいっ!出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでしたっ!」

「分かればいいんだよ!」
ロゼはニコッと笑顔でそう言った。
いつものロゼに戻ったようだ。

「ったく、部下にそんなこと言う王子なんて聞いたことねえぜ。」
エスタは鼻で笑いながらそう言ったが、内心では嬉しそうだった。

一方、インドラ内部では、エンディとラベスタがコックピットを目指し、向かってくる敵を倒しながら走っていた。

機内ということもあり、旧ドアル軍の兵士たちは銃を使わず、剣を持ってエンディとラベスタに襲いかかっていた。

「おい、お前なんでコックピットの場所分かるんだ?」

「俺たちはインドラの設計図のコピーを持ってたからね。とりあえずこのふざけた円盤をどこかに着陸させよう。」

「そうだな。こんな上空にいたら、ラーミアを助け出せても脱出ができない。」

2人はコックピットにたどり着いた。

「ノヴァ!?何やってんだお前??」
「え?なんでお前が操縦してんの?」
エンディとラベスタは、インドラを操縦しているノヴァを見て驚きを隠せない様子だった。

「は?お前らこそ何で乗ってるんだ?」
驚いていたのはノヴァも同じだった。

「ノヴァ、お前死ぬ気?」
ラベスタの核心を突く言動に、ノヴァは一瞬ピクリと動揺した。それを見逃さなかったラベスタが、畳み掛けるように言った。

「やっぱりね、お前が考えそうなことだ。ここにはラーミアちゃんだって乗ってるし、どこかに着陸しよ?今ならまだ引き返せるよ。」

ラベスタに問い詰められたノヴァは無言のままだったが、数秒後に重い口を開いた。

「これは俺の選んだ道だ。マフィアのボスとして今まで散々汚い事をしてきた。死者が出てないとは言え、王宮を襲撃したんだ。この先まともに生きていけるわけがねえ。お前達はラーミア連れてさっさと逃げろ。俺は俺のやり方でケジメをつける。」

「そんなのケジメって言わねえよ。死んで罪を償おうなんて…お前はただの臆病者だ。」

「何とでも言えよ。もう今更後戻りは出来ねえ、だったら行く道行ってやるよ。お前ら逃げねえなら、俺と一緒に死ぬことになるぜ?」エンディの言葉に聞く耳を持たず、ノヴァは嘲笑うようにそう言った。

すると、ギルドが起き上がってノヴァを突き飛ばし、操縦席を奪取した。

「調子乗んなよクソガキども!てめえらの好きにはさせねえからな!」
ギルドは必死に何かを操作している。ピッピッピッと一定のリズムで小刻みに操作音が聞こえた。

すると、インドラの機体の中心部から巨大な弾頭が出現した。

インドラ内部にいる者達は確認ができないが、地上にいる者達は皆注目していた。

エンディは何が起きているのか分からず、どうしていいのかも分からず、少しパニック状態になっていた。
ノヴァは舌打ちし、ギルドを睨みつけていた。
ラベスタはボーッとしている。

「せめてバレラルクだけでも吹き飛ばしてやる!!」そう言ってギルドは勢いよく、大きなボタンを押した。

すると弾頭から、深紅の光線銃のようなものが地上に向かって一直線に撃ち込まれた。

地上は眩い深紅の光に包まれ、人々は目を覆った。

しかしその光線銃は、地上に着弾する前に突如空中に発生した謎の業火に包まれ、消滅してしまった。

激しい爆発音と爆風で、木々は揺れて建物は一部崩れたが、地上にいた人々に被害はほとんどなかった。

しかし、爆風でインドラの弾頭は破壊され、機体に大きな穴が空いた。
そしてインドラは燃えながら、ゆっくりと地上へと降下していった。

カインは大木の幹の上に乗り、空を見上げて降下していくインドラを眺めていた。

「インドラか、ふざけた名前だな。雷帝に対する宣戦布告のつもりか?科学の力じゃ神には勝てないのに、滑稽だな。」
カインはニヤリと笑いながら、意味深な言葉を呟いていた。











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?