輪廻の風 (42)
ロゼの居城にも弾丸が何発か撃ち込まれた。
ジェシカとモエーネは外に出て応戦していた。
ジェシカは短剣を、モエーネはムチを使ってマフィア達を一蹴した。
「足引っ張らないでよね?」
「はあ!?こっちのセリフなんだけど!」
こんな事態でも2人は口喧嘩をしている。
中ではサイゾーとエスタが剣を抜き、ロゼを囲っていた。
「おいおい、俺じゃなくてラーミアとアルファを守れよ。俺の強さはお前らも知ってんだろ?」ロゼは少し鬱陶しそうにしていた。
「あわわわわ…。」
アルファはラーミアの後ろで怯えていた。
「大丈夫よアルファ君。そんなに怖いなら避難所に行けばよかったのに。」
ラーミアは苦笑いしながら言った。
「だ、だって…ボクなんかにこんなに優しくしてくれるラーミアさんが残るのに…ボクだけ避難所に行くわけにはいかないですよ…。」アルファは声を震わせながら言った。
「ほう、アルファ。お前意外と男前じゃねえかよ。」ロゼは少し感心していた。
「ああ、苦しい…もう食べれない…。」
クマシスはお腹をパンパンに膨らませ、床に仰向けになっていた。
「お前もうクビだな。」サイゾーはクマシスに非常な眼差しを向けて言った。
庭園内の銃撃戦は激化していた。
連合軍側は、何としてもマフィアが王宮内に侵入してこないよう命がけで阻止していた。
すると王宮の重厚な扉が開き、ポナパルトが外へ出てきた。
「オラァ!少しは楽しませろよ?」
ポナパルトが凄まじい声量でそう言うと、銃撃戦がピタリと止み、辺りはシーンとした。
ポナパルトの身体からほとばしる異常な闘気と、溢れ出るオーラの凄まじさに、敵味方問わずその場にいた全ての者が恐怖のあまり硬直してしまったのだ。
一方、ノヴァとラベスタはまだ正門を突破出来ないでいた。
ダルマインは体を丸めてガタガタ震えている。
ノヴァとラベスタは何度も正門を抜けようと試みたが、エンディが何度も立ちはだかった。
「ぐわあっ!」
ノヴァから幾度となく攻撃を受け、エンディの顔は大きく腫れ上がって血だらけになっていた。
何度殴り飛ばされても蹴飛ばされても、その度にエンディはノヴァに立ち向かっていった。
「うざいなこいつ。しかもムカつく。」
ラベスタは苛立ちを隠せない様子で言った。
「おい、なんでそこまでする?そんなボロボロになってまで何を守ろうとしているんだ?お前記憶喪失なんだろ?バレラルクに何か恩でもあるのか?」ノヴァは心底疑問そうにして聞いた。
「やっと出会えた…おれを受け入れてくれた大切な人たちを傷つけさせたくないんだ…。それに…誰かが争っているところも、傷ついて苦しんでいるところも見たくない…俺はただ、みんなで仲良く楽しく生きたいだけんだよ…。」エンディは今にも消え入りそうなか細い声で言った。
「言ってる意味がさっぱり分からねえな。もういい、お前殺して俺たちは先に進むぜ?」
すると、カインがノヴァの前に立ちはだかった。
ノヴァは恐るべき速さでカインのまわりを走り回り、四方八方から攻撃をしたが、カインは全て防いでいた。
カインの顔めがけて渾身の回し蹴りを決めようとしたが、カインは両腕を重ねて防いだ。
「やるなお前。」ここまで自身の攻撃を防御されたのは初めてだった為か、ノヴァは内心動揺していた。
「庭園内のマフィアはざっと100人くらいってとこか。いくらなんでも無謀すぎるんじゃねえか?そんな人数じゃ簡単に捻り潰されるぜ?」カインがそう言い終えると、ラベスタが剣を抜いて斬りかかってきたが、カインはヒョイと身軽にかわした。
「言ったでしょ?俺たちの目的は別に勝つことじゃないし、初めから勝てるなんて思ってない。ただ俺たちの憎しみを思い知らせてやりたいだけだよ。だから死ぬことなんて怖くない。」ラベスタがそう言うと、エンディは倒れた状態から怒鳴り声を上げた。
「命を粗末にするなぁ!!」
ノヴァとラベスタはびっくりしてエンディに視線を向けた。
するとエンディはフラフラしながらゆっくりと立ち上がり、続けて言った。
「死ぬことなんて怖くないだと?そんなこと言っても全然かっこいいと思わねえぞ。」
「おい、てめえ何が言いてえんだ?」
ノヴァは恐ろしい表情でエンディに詰め寄った。
「本当は怖いくせに…。怖いものを怖いと認めることができないのは臆病な証だ。本当はこんなことしても意味がないってわかってるんだろ?」
「うるせえっ!」ノヴァはエンディの顔を思いきり蹴り飛ばした。
エンディは倒れても、地べたを這いつくばりながら正門に向かうノヴァの足を掴んだ。
「お前ら全然楽しそうに生きてねえよ。前のおれみたいだ…。こんなことしたって余計辛くなるだけだぞ。」
するとラベスタがエンディに刀を向けながら言った。
「じゃあ俺たちの孤児院を襲撃したバレラルクの軍人をここに連れてこい。ルシアンを見捨てた医者も連れてこい。それが出来るならすぐ引き上げるし、これから先は真面目に生きるよ。」相変わらず無表情だったが、どこか悲しげな表情を浮かべていた。
「ん?孤児院…?」ダルマインは身を丸めて怯えていたが、孤児院という単語に反応を示していた。
「エンディ、こいつらには何を言っても無駄だ。」カインがそう言うと、エンディはゆっくりと立ち上がった。
すると何を思ったのか、エンディはラベスタを力一杯抱きしめた。
エンディの突然の行動に、カインもノヴァもラベスタも、首を大きく傾げていた。
いったい、その真意は何なのか。
ラベスタを抱きしめるエンディの顔は、どこか優しさを感じられたが、同時に悲痛な表情にも見えた。
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