輪廻の風 (53)


パラシュートを使ってインドラを脱出した旧ドアル軍の戦闘員たちは、バレラルクの兵士たちによって続々と拘束されていった。

ロゼ達はインドラが落ちた現場へと急いで向かっていた。
すると上空からラーミア、ダルマイン、ノヴァ、ラベスタがパラシュートで降りてくるのを確認した。

「あれ!?お前ら何してんだ!?」
ロゼは驚いて大きな声を上げた。

「ラーミア!無事でよかった!」
モエーネがラーミアに抱きついた。

「何があったの?」ジェシカがノヴァとラベスタの顔を見て聞いた。

「墜落の原因は分からねえ。ただ、エンディがアズバールに連れて行かれたかもしれねえ。」ノヴァがそう答えると、ロゼ達の顔が強張った。

「みんな、勝手なことしてごめんなさい…。」ラーミアは申し訳なさそうに言った。

「話は後だ!エンディが連れて行かれた方向へ案内してくれ!」
ロゼがそう言うと、ノヴァとラベスタが先頭を走り、ロゼ達を先導した。
ダルマインは置いてけぼりになり、ポツンと放心状態になっている。

「ちょっと俺は墜落現場に行ってくる。」
エスタは静かにそう言って、1人別行動をとった。


エンディは、アズバールに近づくことさえできずにいた。

近づこうとすると、四方八方から木が襲ってくる。
しかしエンディは、苦しそうだが意外にも全て避けていた。

「俺とお前じゃ力の差が大きすぎる、天と地ほどもな。女1人守る為に、随分と無謀な真似をするんだな?」

「無謀じゃねえよ。お前倒してこの戦いを終わらせるんだ!」

「自己犠牲…聞こえはいいが、お前はただ無駄死にするだけだぜ?」

「そんなのやってみなきゃ分からない。力の差がどれだけあったとしても、勝てる可能性が1%でもあるなら…頑張ってみる価値はあるだろ?」エンディは誇らしげに笑いながら言った。

それが気に入らなかったのか、アズバールは眉間にシワを寄せて、冷酷な表情を浮かべた。

エンディは、アズバールから邪悪で禍々しいオーラをヒシヒシと感じた。

すると、エンディの背後に3本の細長い木が勢いよく生えてきた。その木はエンディの体をぐるぐる巻きにした。

エンディは身動きが取れなくなってしまった。

「死ぬ前に答えろ。金髪のガキはどこにいる?」

「カインのことか?知らねえし、知ってても教えねえよ!」エンディは強気な態度で言った。

「そうか、じゃあ死ね。」
アズバールが残忍な目つきでそう言うと、身動きが取れなくなったエンディに無数の木が襲いかかってきた。

間違いなく死ぬ。エンディはそう思った。

悔しくて悔しくてたまらなかった。
無力な自分に激しい怒りを覚えた。

エンディは昔に比べて、生への執着心が強くなっていた。

それはバレラルクでたくさんの仲間に出会い、守りたいものができて、記憶喪失の自分と向き合おうという強い意志ができたからだ。

だから自らの死に対して強い恐怖心を感じた。

鋭利な木々がエンディを貫く寸前、エンディはまた例によって、身体中から風を放出した。

その風はエンディに巻き付いている木、襲いかかってくる木々をバラバラに切り裂いた。

それは所謂、カマイタチと呼ばれるものだった。

勿論、無意識であった。
その風の刃は、アズバールにも襲いかかった。

アズバールは咄嗟に自分の前に大木を生えさせて防御を試みたが、盾となった大木さえも切り裂き、その風の刃はアズバールに届いた。

致命傷に至るほど深い傷は負わなかったが、アズバールは身体中に斬り傷が出来て大量の血を流した。

「て…てめえ…異能者だったのか…。」
アズバールはかなり動揺していた。

エンディは何が起きたのか、まるで理解していなかった。

「ただのガキだと思って油断したぜ。名前を聞いておこうか?」血を流しながら、苦し紛れにニヤリと笑ってそう言った。

「エンディだ。」

「エンディか、覚えておくぜ。」
アズバールがそう言うと、エンディの前にモスキーノが出現した。

「エンディ〜、只者じゃないとは思ってたけど、まさか異能者だったとはねえ。しかも風か。」モスキーノはニコニコしながら言った。

「てめえは…将帥のモスキーノだな?」

「そうだよ。初めましてだね、アズバールさん?」

「モスキーノさん!?どうしてここに?」

「楽しそうな気配がしたから来ちゃった!おかげで面白いものが見れたよ!」
モスキーノは、まるで無邪気な子供のように楽しそうにしていた。

「ククク…運がいいぜ。将帥を1人ここで、殺せるんだからなあ!」
アズバールは有頂天になっていた。

辺り一帯の全ての大木が、今までにないような激しい勢いで波打つようにクネクネと動き出した。

それはとても不気味で、身の毛もよだつような光景だった。

そして、数えきれない程の膨大な数の木の幹や枝が、四方八方から絶え間なくエンディとモスキーノに襲いかかった。

逃げ場のない絶体絶命の窮地。
エンディは青ざめた顔をしていたが、モスキーノは一切動じていなかった。

すると、2人に襲いかかってきた無数の木々が一瞬にして凍った。

それだけではない。

城下町一体を覆い尽くしている全ての木々が凍ってしまったのだ。

エンディは、信じられない光景を目の当たりにした。

突然寒くなり、息が白くなった。
空気までもが冷気を放っていた。

木だけがピンポイントで凍っていると思いきや、アズバールも凍っていた。

アズバールも森林も、まるで美しい氷の彫刻のようだった。

エンディは絶句してしまった。

「え…モ、モスキーノさんも、その…異能者ってやつですか?」

「そうだよ!エンディも俺みたいに、力をコントロールできるようにならないとね!」
アズバールと対峙している時は恐ろしい顔をしていたモスキーノが、ニコリと微笑んで優しい顔に戻っていた。






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