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ミュージカル映画が影響を与えた意外なものたち

最近、私がずっと楽しみにしていたNHKの番組『星野源のおんがくこうろん』が、なんとこないだの金曜日で最終回を迎えてしまいました。非常に残念このうえない。本当に生きがいだったので辛いです。第二期、まじで期待してます。

さて、この『星野源のおんがくこうろん』という番組、ひとりの著名な音楽家にフォーカスを当て、そこから音楽の歴史や知識、そして音楽それ自体の楽しさを星野源さんと学んでいくという構成になっているのですが、最終回は”上を向いて歩こう””明日があるさ”などを作曲した日本を代表するジャズピアニスト中村八大さんがフォーカスされていました。

音楽史的な影響

その番組内で中村八大さんにアーティストとしての指針を与えた音楽的ルーツとして紹介されていたのがなんとミュージカル映画である『アメリカ交響楽』だったのです。下の記事によると中村八大さんは何回も何回も『アメリカ交響楽』という映画を見なおしていたとのこと。

この番組でも紹介されていたように、中村八大さんの音楽は1970年代のニューミュージックに多大な影響を与え、そしてニューミュージックは現在のJ-POPに多大な影響を与えています。そういった意味で中村八大さんは「J-POPの親」ともいえる超大物です。

また、番組では国内にとどまらない影響として、海外のHIPHOPシーンにも中村八大さんの音楽は強く爪痕を残していることも紹介されていました。特に下の動画のLa Di Da DiというHIPHOP界の名曲で”上を向いて歩こう”が引用されているというのは衝撃です。

そんな音楽界に絶大な影響を与えた中村八大さんのルーツにミュージカル映画が存在しているということは第二次大戦後当時のミュージカル映画の音楽的影響力の大きさを強く印象づけます。

このように音楽史的なミュージカル映画の影響は、ミュージカル俳優フレッド・アステアに憧れたマイケル・ジャクソンなど無数に挙げることがでれるでしょう。ミュージカル映画から生まれたジャズのスタンダードナンバーも『ホワイト・クリスマス』をはじめ数えきれないほど存在します。

芸能界への影響

ミュージカル映画が影響を与えたのはその音楽的側面だけではありません。そのミュージカル映画のもつショースタイルが日本の芸能界に大きく影響を与えています。

というのは、日本を代表するエンタテインメント集団ジャニーズ事務所が男性アイドルをプロデュースするきっかけとなったのが、かの有名なミュージカル映画『ウエストサイド物語』とされているのです。

ジャニーズ事務所の創始者ジャニーさんが「ジャニーズ少年野球団」と一緒に『ウエストサイド物語』を観劇した際、歌って踊れるミュージカルスターのいる少年版・宝塚を作ろう!と思い立った。という逸話が伝説として語り継がれています。

日本の芸能界におけるジャニーズ事務所の影響力は現在も計り知れません。マルチな才能を持ち、容姿端麗で、なおかつ伝統的に高いプロ意識を持つジャニーズは現在の日本の芸能界の間違いなくトップといっていいでしょう。

また、SMAPは歌って踊れるうえにバラエティー番組でもマルチに活躍するタレントとして一世を風靡し、そのスタイルはモーニング娘。など後世のタレントにも大きな影響を与えました。

ジャニーズだけじゃありません。ほかにも、日本のコント番組が強くミュージカル映画の影響を受けているように見えます。昭和初期のバラエティー番組、『夢で逢いましょう』の一流歌手や一流音楽奏者そしてテレビタレントが歌を交えながらコントをするというスタイルは、レッド・スケルトンダニー・ケイといったような往年のミュージカル映画らしさを強く感じさせますし、

この『夢で逢いましょう』から時間が経った今も、お笑い番組で歌が歌われたり演奏されることは頻繁に行われます。あみんやドリフターズをはじめお笑い番組から生まれるヒットソングも非常に多いです。

ドリフターズは今見ると生演奏なのが素晴らしいですよね。私はそういったところにミュージカル映画のエッセンスを感じます。そもそもミュージカル映画それ自体がヴォードヴィルという「アメリカのお笑い」から強く影響を受けているのでお笑いと歌はそもそも相性が良いのかもしれません。

最近だとこの千鳥のクセがすごいネタグランプリの「いい子見つけたわ」というコントが実にミュージカル映画的で素晴らしいです。非常に歌も上手く上質な作品となっています。お笑いに興味がない方も一見の価値ありです。

美的影響

ここまで紹介してきたものと比べると限定的な影響ではありますが、ミュージカル映画の様式は美術の世界にも影響を与えています。その代表的な存在であるのが、マシュー・バーニーという現代美術作家です。

マシュー・バーニーの代表作「クレマスター・サイクル」という作品は、ビデオアートという現代美術の作品とされています。このビデオアートというジャンルは、ナム・ジュン・パイクが第一人者とされており、あるときはインスタレーションとして、あるときはパフォーマンスの記録として制作されます。私はピピロッティ・リストの下記作品が好きです。

さて、そんなビデオアートを手掛けるマシュー・バーニーの作品ですが非常にミュージカル映画の影響を強く受けています。特にバズビー・バークリーという1930年代を代表するミュージカル作家の影響を露骨に受けています。たとえばこちらの動画。

普段は感じない奇妙な感情を喚起させる非常に現代美術らしい映像ですが、途中のタップダンスがあるシーンなどはかなりミュージカル映画らしくみえます。また、下の『バズビー・バークリーの集まれ仲間たち』という作品と見比べてみるとかなり実は美的センスが近いことがわかります。

このように、ミュージカル映画の様式として独自に進化を遂げた美的感覚は美術の世界にも影響を与えています。

また、日本でも同様の現象が起きています。代表的なのは『オペレッタ狸御殿』などミュージカル映画を手がけたことで知られる鈴木清順。彼がミュージカル風シーンで発揮する色彩感覚に優れた映像は清順美学として高く評価されており、ジム・ジャームッシュやデイミアン・チャゼルなどの後世の映画監督に影響を与えたとされています。

さいごに

ミュージカル映画はかつて映画でも花形ジャンルでした。そのため、非常に数多くの作品が作られ、たくさんの観客に見られました。そして、そのジャンルは、様々な視聴者を通して現在の世界にさまざまなかたちでこうして影響を残しているです。


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