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【小説家は「場面」の編集者】詰め込みすぎずにどこをどう切り取るかを考える(2020年12月号特集)


※本記事は2020年12月号に掲載した三浦しをん先生のインタビューを再掲載したものです。

つなぎの部分をどう見せるのかも小説の技術

――WEB小説の影響か、一行空きを多用する人が多いですが、避けたほうがいいですか。

 ネット上で読むことを前提としているなら、適宜一行空きがあったほうが読みやすくはありますが、本当のことを言えば、ネットで読むとしても「本当に面白い小説だったら一行空きなんかなくても読める」。そういう気持ちで書くことが大事だと思うんですね。
 とくに応募する賞が紙の媒体で、本になることが前提なら、どこにどう一行空きを入れるかはよく考えて書くべきだと思います。

――一行空きを乱発すると、場面を羅列しただけのように見えます。

 エピソードとエピソードが並んでいるだけのように見えて損だと思うんですよね。つなぎの部分をどう見せるかも小説の技術で、それが全然できないことになるので、もったいないと思いますね。

――人物の外見については、早めに情報を出したほうがいいですか。

 媒体によりますね。コバルト文庫は挿絵も入りますし、外見も含めた魅力を伝えたほうがいい。

――三浦さんご自身は?

 私は基本的に外見描写をしません。文章でどれだけ詳しく書いても、脳内映像は人それぞれです。
 だから、しないんです。皆さん、好きな顔、姿を思い浮かべてくださいと、他力本願な姿勢です。

――年齢や性別の情報提示についてはいかがですか。

 実はこの間、ある小説を読んでいて、最後まで主人公が何歳なのかがわからなかったんですよ。いったい何歳だろうとずっとモヤモヤしていて、早く情報提示してほしいと思いました。年齢がわからないと、その仕事に就いて何年になるのかとか見当がつかない。

――変なところで引っかかって、小説に集中できないですよね。

 どの情報をどのタイミングで入れれば、読者をモヤモヤさせないか、伝えたいことに集中してもらえるかを考えるのがコツです。

――書き手は脳内に絵があるので、つい書き忘れるんですよね。

 私も、「2ページ前ではお財布を手に持っていたのに、あのお財布はどうなったんですか」と校閲さんに指摘されたことがあります。
「コーヒーカップを持ち上げた描写はありますが、下ろした描写がありません」とかね(笑)。
 それで、「言われてみれば忘れていた」と書き足すこともあれば、すべての行動を逐一気にしていたら話が進まないので「どっかで下ろしたと思ってくれよ!」と思う場合もあります(笑)。

どこをどう切り取ってどう見せるかが大事

――三浦さんはお仕事小説の名手でもありますが、取材はしたほうがいいですか。

 書きたいものによりますね。脳内妄想で済むものもあれば、専門の仕事をしている人に取材したほうがいいものもあります。
 取材して面白いエピソードがあると使いたくなりますが、盛り込みすぎはよくない。取材レポートみたいになってしまうので。取材しても書くのはほんのエッセンスだけ。主人公が専門的な職業に就いていても、取材しないで書く作家はいると思うし、それはアリだと思いますよ。もちろん、資料や関連の本は読みます。

――物語の大きさと枚数が合ってなくて、短編で人の一生を書こうとしたりする人がいます。

 書き慣れていないうちは、この長さならどれくらいの時間を扱い、登場人物は何人ぐらいが適当かがわからないためかも。短編に一生をギュッと押し込めて書くような熱量は嫌いじゃないですが、詰め込みすぎたと思ったら、今度は一生の中のここだけを書こうと思える人が上達する人です。
 
小説を書くには、映画を編集するように、どこをどう切り取ってどう見せるかということが必要なのに、文章を書くとなると出来事を最初から最後まで書いてしまう。
「朝起きて、何をして何を食べて夜寝ました」と書くのは日記です。
「その日、ある人と会った、そこでこう感じた」と切り取り、そこを書くのが小説だと思います。
 一日にあったことをのんべんだらりと書いては小説にはならない。
いや、なる小説もあるんですが、それは書き慣れてから挑戦したほうがいいです。

流行りに飛びつく人は作家として続かない

――「人間に興味がない人は小説家に向かない」と本に書かれていました。

 どんな仕事でもそうだと思いますが、人間に関心がないとだめでしょう……だめではないですが、人付き合いも含めて、余計な苦労が多いと思います。

――いろいろな人間を描くなら、「気の合う人とは付き合うけど、気の合わない人とはシャットアウト」ではなく、嫌いな人にも興味を持ったほうがいい?

 私は気の合わない人はシャットアウトですけど(笑)。そこは無理しなくていいのでは。ただ、お近づきにはならなくても、すごく観察はしますね。言動がイヤだなと思ったら、「なんでこの人はこんな言動をするのか」とすっごく考えるんですよね。こっそり眺めて、ずっと考えてますね。「なにゆえこういう振る舞いになるのか、いったい何を考えて、これまでどうやって生きてきたのかな」と考えるのが好きなんですよね。

――もちろん、人間について考えるのが目的であって、答え合わせをする必要は?

 ないですね。答え合わせをするためには、その人と親しくならなきゃいけないじゃないですか。それはイヤなので(笑)。

――この作家を目指そうと思える存在はあったほうがいいですか。

 いや、いなくて別にいいです。好きな小説家がいても、その人になれるわけじゃないから、その人を目指さなくてもいいと思うんです。好きな小説、好きな作家というのはあっていいと思いますが、目指さなくてもいい。自分が小説を読んでいるときに「好きだな」と思う気持ちで、自分の書きたいものを書いていけば全然大丈夫だと思います。

――前年の受賞作が話題になると、翌年は似た作品が増えたりしますが、流行や傾向に影響されてはいけないですか。

 それは別にかまわないと思うんですよね。流行っているものが多くなるのは、どんなジャンルでも同じじゃないですか。洋服でも音楽でも。流行っているものでも、自分が書きたいものであるならば、それは気にしなくてもいい。設定やムード、世界のとらえ方みたいなものが似ていたとしても、書く人が違えば全く違う作品になるからです。ただし、流行っているからという理由だけで飛びつくのは、動きとして遅いんですよ。その人はいつも流行りの三歩くらいあとを追うことになる。だから仮にデビューできたとしても、その姿勢のままでは続きません。小説の依頼が来ないからです。

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※本記事は「公募ガイド2020年12月号」の記事を再掲載したものです。

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