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【純文学を狙うならこのコンテスト!】文学賞ガイド 純文学編 2024年版

 数ある新人文学賞の中には、プロの作家になるルートが確立した賞と、そうではないものがあります。プロの登竜門といわれる新人文学賞は、さらに純文学系とエンターテインメント小説(エンタメ小説)系に分かれます。

 それぞれの応募要項には「未発表の小説を募集」ぐらいしか書かれておらず、どれがどんな賞なのか、はっきりと区別がつかないという人もいるでしょう。結果、「その作品だったら、こっちの賞のほうがよかったのに」ということも起こり得ます。

 そこでそんなカテゴリーエラーを防ぐために、各賞について詳しくガイドしていきます。
 今回は、プロの登竜門的文学賞・純文学編です。

※掲載している情報は過去のものの場合があります。今年度の開催状況は、主催者サイトを随時ご確認ください。


文學界新人賞

【概要】
 文學界新人賞は、1954年(昭和29年)に創設され、翌年に第1回受賞作が決まった新人文学賞の草分け。当時は懸賞小説が主流で、新人を発掘、育成しようという新人文学賞はありませんでした。そのさきがけとも言える文学賞です。
 第1回受賞作・石原慎太郎「太陽の季節」は芥川賞もW受賞し、弟の裕次郎も出演して映画化、「太陽族」という流行語まで生みました。
 出身者には石原慎太郎をはじめ、松浦理英子、吉田修一、絲山秋子、長嶋有、円城塔などがいる。

【母体】
 「文學界」は、文藝春秋が発行する純文学系文芸誌。昭和8年、文化公論社から創刊され、その後、昭和11年から文藝春秋発行となる。

【編集部の独り言】
 他の賞が長編にシフトするなか、芥川賞を意識してか、400字詰原稿用紙70~150枚の短編・中編を募集。歴史と伝統があり、王道中の王道。応募数は2120編(第129回)と多い。

【公募DATA】
規定枚数 400字詰原稿用紙で70枚~150枚。
賞 賞金50万円
選考委員 青山七恵、阿部和重、金原ひとみ、中村文則、村田沙耶香
締切 9月30日(消印有効)

新潮新人賞

【概要】
 新潮新人賞の前身は、1954年(昭和29年)に創設され、1967年(昭和42年)まで続いた同人雑誌賞。新潮新人賞は1968年(昭和43年)創設。同人雑誌賞時代を含めると、文學界新人賞と並ぶ歴史と伝統を持つ。2008年の第40回から評論・ノンフィクション部門が廃止され、小説部門のみの募集に。
 出身者は、中村文則、小山田浩子、田中慎弥、滝口悠生、上田岳弘、古川真人など。芥川賞作家など多くの純文学作家を輩出している。

【母体】
「新潮」は、明治37年(1904年)創刊。「小説の新潮」と言われる新潮社の純文学系文芸誌。

【編集部の独り言】
応募規定の中に「短編可」とあるのは、受賞の対象というより、短いながら光るものがある作者の青田買いか。応募数も2788編(第55回)と多い。

【応募DATA】
規定枚数 400字詰原稿用紙で250枚以内(短編も可)
賞 50万円
選考委員 上田岳弘、大澤信亮、小山田浩子、金原ひとみ、又吉直樹
締切 3月31日(消印有効)

群像新人文学賞

【概要】
 群像新人文学賞は、1958年(昭和33年)創設。第1回、第2回は該当作なしだったが、昭和40年代に大庭みな子、李恢成、高橋三千綱らを輩出し、昭和50年代に村上龍、村上春樹を発掘、一躍人気新人文学賞に。多和田葉子、阿部和重も出身者。受賞作につぐ優秀賞から開花した作家に島本理生、村田沙耶香がいる。

【母体】
「群像」は、昭和21年(1946年)創刊。講談社の純文学系文芸誌。

【編集部の独り言】
文芸誌創刊も新人文学賞創設も上記ツートップに遅れをとったが、村上龍、村上春樹の発掘で盛り返す。W村上の印象が強いが、作風は各受賞者さまざま。応募数は1986編(第66回)。

【応募DATA】
規定枚数 400字詰原稿用紙で70~250枚
賞 50万円
選考委員 島田雅彦、町田康、柴崎友香、松浦理英子、古川日出男
締切 10月15日(消印有効)

文藝賞

【概要】
 文藝賞は、昭和37年(1962年)に創設された、河出書房新社が主催する新人文学賞。芥川賞作家が文字どおりぞろぞろ輩出している
 過去の主な受賞者は田中康夫、堀田あけみ、山田詠美、綿矢りさ、中村航、羽田圭介、山崎ナオコーラ、白岩玄、青山七恵、宇佐見りん、遠野遥など。

【母体】
「文藝」は昭和8年(1933年)、改造社が創刊し、昭和19年から河出書房(河出書房新社の前身)が引き継ぐ。現在は「季刊文藝」。

【編集部の独り言】
10代、20代が受賞している印象もあるが、60代で受賞した若竹千佐子も出身者。純文学系であることは間違いないが、規定枚数400枚はエンタメ性も要する。応募数は2018編(第60回)。

【応募DATA】
規定枚数 400字詰原稿用紙で100~400枚
賞 50万円
選考委員 小川哲、角田光代、町田康、村田沙耶香
締切 3月31日(消印有効)

すばる文学賞

【概要】
 集英社が昭和52年(1977年)に創設。既成の文学観にとらわれない、意欲的な作品を求め、第2回のときに森瑤子、昭和後期に佐藤正午、辻仁成、原田宗典、藤原伊織を発掘。金原ひとみ、原田ひ香も出身者で、純文学の枠に収まらない幅広い才能を見出している。

【母体】
「すばる」は昭和45年(1970年)創刊。集英社の純文学系文芸誌。森鷗外らが創刊させた「スバル」とは無関係。

【編集部の独り言】
純文学系に分類されるが、上質のエンタメ小説を書いている出身者もいる。純文学系としては高額の賞金100万円も魅力。応募数は比較的少なめで890編(第47回)。

【応募DATA】
規定枚数 400字詰原稿用紙で100枚程度~300枚
賞 100万円
選考委員 奥泉光、金原ひとみ、川上未映子、岸本佐知子、田中慎弥
締切 3月31日(消印有効)

太宰治賞

【概要】
 太宰治賞は昭和39年(1964年)創設。吉村昭、宮尾登美子、宮本輝を発掘したが、筑摩書房倒産により第14回で中断。1998年(平成10年)、太宰治没後50年を機に三鷹市共催で復活。
 太宰治の名は冠しているが、太宰治および太宰治作品は意識しなくていい。純文学系であることは間違いないが、受賞作の作風は幅広い。中断後の出身者には津村記久子、今村夏子などがいる。

【母体】
母体となる文芸誌はなし。

【編集部の独り言】
文芸誌を持たないため作家修業はしにくいが、入選作は『太宰治賞(西暦)』として出版される。これをきっかけに他社で活躍できるかがカギ。応募数は1246編(第39回)。

【応募DATA】
規定枚数 400字詰原稿用紙で50~300枚
賞 100万円
選考委員 荒川洋治 奥泉光 中島京子 津村記久子
締切 12月10日(消印有効)
WEBサイト www.chikumashobo.co.jp/blog/dazai


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