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波と凪

変わり映えのない日常は凪のよう。
それはそうだ。なにもしていないのだから。
毎日淡々とこなしていく。安定、安全、安心、刺激はいらない。
一日の終りに、布団の中でぐっすり眠れるだけ幸せだ。
なにもない日、晴れたら散歩をして、雨が降ったら映画を見る。
いつでもカバンに本を入れて、好きなだけ読む。
朝はコーヒーを飲んで、夜はすこしお酒を飲む。

そんな生活が欲しかった。手に入れた。不安になった。

この凪をいつまで続けるのだろう。
きっとそんな生活いつまでも続くものじゃない。
思っていたけれど、いつまでも続いていた。
これはもしかして幸せなのではないか。
あのとき夢見た生活を私はいま生きていることを自覚した。

でも、果てがないことが恐くなった。

波を立てるにはどうしたらいいのか、知っていた。
動けばいい。

動けば動くほど波は揺れて、増えて、広がって、
生活はどんどんどんどん揺れていく。

知らない人にたくさんあって、たくさん話して、嬉しいことも嫌なことも一緒くたになって浴びる。必死に生きて、いつの間にか時間が経って、ときには心の中が枯れた湖のように感じるときもある。誰とも話さない日が欲しくなる。そんなときは1日中家にいて布団の中でただただうずくまる。知り合った人から連絡が来る。私のことを知らない知り合いたち。なんとなくその場の雰囲気で会話して連絡先を交換した人たち。探り合いのような会話の中でたまたま話した表面的な趣味の話で意気投合した人たち。連絡が来て、連絡を返さないといけないと思っていたら、グループチャットに入れられていて、会話はどんどんされていく。それを眺める私はとてもそこに入ろうと思えない。

いつの間にか頑張らないといけなくなっていた。
ただ人と関わるだけなのに、人と関わることに一番頑張っていた。

愛想笑い、軽口の言い合い、探り合い、すれ違い。

私はなにを求めて波を起こしたんだろうか。
凪はあんなにも安定で、安心で、安全だったのに。

いつの間にかとてつもなく凪のことが恋しくなった。
手に入れたい、またあの生活を手に入れたい。

でもできない。
一度起こしてしまった波はなくならない。
排水口の栓を抜いて、水を全部抜いてしまわないと。
その人たちとの関係をすべて解消してしまわないと。

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