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わからないことばかり

もう一年も終わる東京の山手線。もう今年も終わるしそろそろ映画でもみに行こうかと山手線に乗って、カバンに入れてきた本を取り出す気にならずにぼうっと周りの人に目を向けてみる。みんななんか疲れてそう。あと、スーツケースとか大きい荷物持ってる。紙袋の中にはお土産が入っていてがさがさ音がする。

駅に止まるたびに人が入ってきて、そのほとんどが誰かといて大きな荷物を下げている。おお、これが年末なのだよとしみじみしながら一人ものがいないのかあっち側の方も見てみる。何人かいる。私のような年末にも東京に居続けるものたちが。

ふとスーツケースに目が止まる。窓からは西陽が差し込めてきて眩しいのがさらに年末感を演出する不思議と、スーツケースに4、5枚無造作に貼ってあるステッカーっていつどういうつもりで貼ってるんだろうという不思議が重ねて襲ってきた。

ちなみに彼女には物にシールを貼るという習慣はない。いまの家にスーツケースはないけれど、昔は持っていた。きっと私もいい感じに縦方向とか横方向とか斜め方向に、いい感じにステッカーをペタペタと貼っていくのだろう。スーツケースを買ってもらうときに思った淡い記憶は淡いままで、旅行先に行っても別にステッカーがもらえるわけでもないし、わざわざステッカーを買って貼るほどの意欲もないし、貼らずに終わった。

ステッカーってどこで手に入れるのか?
これは私だけの疑問で、あるいはステッカーをもらえるようなグループが存在するのだろうか。いま見ているステッカーは黒い背景に白い植物の枝のようなものがデザインされている手のひらくらいのサイズだ。なんか見たことある。あ、ニュージーランドのラグビーのデザインっぽい。そうか、この人そのスーツケースでニュージーランド行ったことあるのね。なるほど。ということは英語話せるのか。けっこうその人の情報得られるな、ステッカー。なんて思うのはどうでもよくて。

問題はそのステッカーが、スーツケースの右横真ん中くらいにやや斜めに貼ってあることなのだ。なぜ斜め?なぜその位置に?その人がそこに貼った瞬間の記録映像があるならばぜひ見てみたいほどに想像を絶する奥深さを彼女は感じていた。

わかんないことばかりだよほんと。
まさか年末のこの時期にこんな難問にぶち当たるとは。東京に一人でいるのも悪くないと思う。

東京駅に着く。
座席は満席。歩くスペースもないほどの車両にいた人のほとんどが降りていった。スーツケースの彼も降りていった。彼女は彼のスーツケースを見つめながらどこかに帰っていく彼を見送った。

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