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真夜中-X

保たれる秩序が破れる瞬間。
すべて想定通り。おかしなことは起きない。

例えば、電車で隣に座っている人から話しかけられる。
例えば、夜遅くの帰り道、道端に1万円が落ちている。
例えば、映画館での上映開始直前、目の前の空席に長身の男性が着席する。
例えば、渋谷のスクランブル交差点で、有名人とすれ違う。

そんなことってほとんど起こらない。
すべて、ほとんど想定通りに終える毎日。そのどれもが起こることはないことを前提として、起こることなくすぎていく瞬間の積み重ね。

急に破れるときがある。予想外の面白いこと。
家電量販店のオーディオ機器売り場、突如としてスピーカー売り場からフロア全体に鳴り響かせるほどのインド音楽、大音量にも程があるほどの。振り向く、インド人夫婦がスピーカーの前で真剣な表情で音楽を、スピーカーの性能を確かめるが如く立っている。
フロアにいる他の人を見ると、みんなこの、急にインドを展開し出した音源の方向に目を向け始めている。しかし、インド人夫婦は一向きにすることなく音楽に耳を傾ける。

いい、これでいい、と思う。
大音量にも慣れてきて、音楽が心地よくなる。
なんならもっと音を大きくしてもいいとさえ思えてくる。
でも、あちらから歩いてくる店員の姿が目に入る。ああ、と思う。

街の中にいるときの、突如として秩序が破れる瞬間が好きだと思う。
店員が来る前に名残惜しく、その場を立ち去る。

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