沙本毘賣 夫の兄の狭間で 垂仁天皇⑦神話は今も生きている ことの葉綴り。二八五
兄の謀反の企て
こんばんは。今日は日暮れ時からの「ことの葉綴り。」です。。
第十一代垂仁天皇(すいにんてんのう)が寵愛した
皇后の沙本毘賣命(さほびめのみこと)。
ある日、兄の沙本毘賣命(さほびめのみこと)から、
「大切な話がある」と呼ばれた沙本毘賣命(さほびめのみこと)。「夫である天皇と兄の私と、どちらを愛しているか」と、問われまたのです。
夫のことも嫌いではない。
でも……。
兄(いろせ)ぞ、愛しき
兄上のほうが愛おしい……。
兄の沙本毘古(さほびこのみこと)愛しい妹の肩を抱き寄せて、耳元でこう言葉を続けたのです。
嬉しいぞ。
夫よりも兄の私を誠に愛してくれているというなら…………。
そなたと私の二人で、天下をとって治めよう。
兄の口から語られたのは、夫である垂仁天皇に謀反を起こす計画についてだったのです。
沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、ただただ驚くばかりで、息をするのも忘れそうです。
思考も停止してしまっています。
暗殺指令
すると、兄の沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、
あるものを、妹の沙本毘賣命(さほびめのみこと)に、握らせます。
それは、刀をつぶしたうえで、何度も何度も繰り返し鍛えたつくった鋭利な短刀だったのです。染めた紐もついていました。
鋭い小刀を妹の手に握らせて、その上から自分も強く力を込めて、妹の手を握りしめました。
そして、こう語りかけます。
よいか、愛しい妹よ。
この小刀で、天皇(すめらみこと)が眠っている隙を見て、お刺しして、命亡き者とするのだ。
沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、兄の沙本毘古(さほびこのみこと)から、なんと、夫である天皇を暗殺するように、指令されたのでした。
沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、あまりのことに、それが現(うつつ)なのか、夢なのか、わからなかったのではないでしょうか。
手のひらからぶら下がって見える短刀の紐。
そして、自分の手の平に乗った担当のずっしりとした重みから
我が身に起きていることが、
目の前で、自分を見つめている兄の熱視線は
これは夢ではないのだ……
そう、思わせるのに充分だったのです。
決行の夜は更けて
その夜のことです。
垂仁天皇は、皇后沙本毘賣命(さほびめのみこと)の帰りを待っていました。
いつものように、夕餉の後、
何も知らずに、心を許し、寵愛する皇后の膝を枕にして休んでいます。
垂仁天皇にとっては、一日の政務を終えて、疲れを癒す安らぎのとき。
大好きな妻の膝に我が身を預けきり、安心しくつろいでいます。
すやすやと寝息も聞こえています。
一方、皇后の沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、
兄から手渡された短刀を忍ばせて、緊張して身が固まりそうです。
我が身の膝で、寝息を立てる夫の顔を、角髪(みずら)の髪をなでながら、その時を待っているのです
よいか、我が妹よ。
天皇(すめらみこと)が眠るのを待ち
この短刀で、首を一突きにするのだぞ。
そして、私と共に天下を治めよう!
愛しい妹に、私たちの未来がかかったいる!
頼んだぞ!
兄の思いつめた顔、覚悟を決めた言葉が脳裏から離れません。
天皇(すめらみこと)は、一人の夫として
なんの疑念ももつことなく
愛する妻の膝で、ただ、ただ、幸せそうに寝息を立てているのです。
夜は静かに更けていきます。
―次回へ
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