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沙本毘賣涙で罪の告白 垂仁天皇⑩神話は今も生きている ことの葉綴り。二八八

“暗殺指令”の失敗

日曜日の朝、おはようございます。今年も残すところ半月ですね。さて、今朝も「ことの葉綴り。」のひとときをば!
宜しくお願いします。

第十一代垂仁天皇(すいにんてんのう)の皇后の沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、兄の沙本毘古命(さほびめのみこと)から、
“暗殺指令”を受けていました。

愛する兄のために……
とはいえ、夫婦として皇后として共に過ごした夫への情……。
膝枕で眠る天皇の命を奪おうと、三度、短刀を振りかざしますが、
“密命”を遂行することはできませんでした。

眠りについていた垂仁天皇は、不思議な夢を見て目を覚まします。
皇后の実家の屋敷のある沙本(さほ)で、急に豪雨が降りだして
自分の頬にその雨があたります。
また、首には錦の文様をして小さな美しい蛇がまとわりついて離れない……。
そんな夢でした。

初代の神武天皇をはじめ、「夢」は、天つ神の御こころから、予兆やなにかのお告げであることを、垂仁天皇はご存じだったでしょう。
父上の崇神天皇も、そうであった……。

そうであるならば、今、私が見た夢は、何を告げているのだろう?

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すぐ傍にいる皇后の沙本毘賣命(さほびめのみこと)に、見た夢の話をすると、妻は、目を大きく見開いたかと思うと、
突然、頭を垂れて、床に伏したのです。
肩をふるわせながら、沙本毘賣命(さほびめのみこと)は

どうか、どうか、お許しくださいませ……。

泣きながら、そう言葉にします。

眠りから覚めたばかりの天皇は、目の前で降れ伏す皇后を見つめます。

どうか、どうか、お許しくださいませ……。

沙本毘賣よ、どうしたのだ? 

沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、意を決したように、表を上げると、目に大粒の涙をためて泣きながらも、こう語りはじめました。

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沙本毘賣(さおびめ)の涙 罪の告白

今日、私は、沙本(さほ)の兄の沙本毘古王(さほびこのきみ)に呼ばれました。
そして、兄から、『夫である天皇と、兄と、そなたはどちらが大事に思い愛しているか?』と、問われました……。

面と向かい、兄から突然に問われて……私は、気おくれしてしまい……つい……『兄上が大事』と……答えたのです。
それですむかと思っておりましたら……。
兄は、『私とお前とで、共に天下を治めよう。そのためには、天皇をお殺し申せ』……そういわれて……私に、この小刀を持たせました……。

沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、涙で嗚咽し、震える手で“暗殺指令”のために隠していた短刀を、膝の前に置いて、天皇に見せました。
紐のついた小刀は、鋭利な刃先が光っています。

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そして、今宵……私は、天皇のお首をこの小刀で……刺さなければならないと……そう思い……天皇がお眠りになってから……三度、この小刀を……振り上げたのです……。
けれど……けれど……あまりにも辛く、悲しく……その悲しみに耐えきれず……私には……できませんでした……。
その悲しみの涙が……眠っていらっしゃる天皇のお顔に……落ちてしまったのです……。

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天皇がご覧になった夢は、兄、沙本毘古(さほびこ)のおこした謀反の印でございましょう。
天皇の頬を濡らした雨は、私の悲しみの涙が、頬をぬらしたからでございます。

……小さな蛇は、きっと、この小刀についた紐が、天皇のお頸(くび)に触れてしまった……私のことでございましょう。

天皇がご覧になった夢は、謀反を知らせる夢のしるし、そのものでございましょう……。
お許しくださいませ……私は、なんということを……。

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赦す・赦さない 垂仁天皇の決心

沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、そこまで話し終えると、こらえきれずに泣き崩れたのでした。


私は、あやうく、すんでのところで、欺(あざむ)かれ、だまし討ちにあうところであったのだな……。

皇后の話を聞いていた垂仁天皇は、悲しみと落胆と怒りの混ざった表情をされています。
皇后である沙本毘賣(さおびめ)を、本当に愛し大切にしていたのですから……。


沙本毘賣(さほびめ)よ。
よく正直に打ち明けてくれた。
私は……皇后であるそなたのことは、赦そう……と思う。

……けれど、けれど、謀反を企てた、沙本毘古(さほびこ)のことは、けっして赦すことはできぬ!!!

そう断言すると、すぐに立ち上がり

誰か、誰か、おらぬか!?
すぐに急ぎ軍を集めよ!
敵は、我が首を狙い、謀反を起こした沙本(さほ)の沙本毘古(さほびこ)じゃ~~!!

寵愛する皇后の告白を受けて、后の罪は許しましたが、一方反逆を企てた、兄、沙本毘古(さほびこ)征伐の軍を起こしたのでした。

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―次回へ


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