別れと喜びの涙 本牟智和気王13 神話は今も生きている ことの葉綴り。三一六
大蛇 別れの悲しみの涙
おはようございます。快晴の日曜日の朝、ゆるりと「ことの葉綴り。」に向かいます。これまでの「ことの葉綴り。」神話のまとめはこちらです!
“もの言わぬ皇子”だった本牟智和気王(ほむちわけのみこ)の物語もいよいよ大詰めです。
第十一代の垂仁天皇(すいにんてんのう)が寵愛した皇后、沙本毘賣(さほびめ)の忘れ形見の皇子。
誕生してすぐ、母の沙本毘賣(さほびめ)は、兄の沙本毘古(さほびこ)と共に命を落としたため、母を知らずに育ちます。
父の垂仁天皇(すいにんてんのう)は、とても愛情をかけて育てますが、大きくなっても“ものを言う”ことはありませんでした。
ある夜、父の天皇の夢に、出雲の大神が現れ、“もの言わぬ”原因が、大神の祟りだと知らされます。
そして、本牟智和気王(ほむちわけのみこ)は、出雲の大神へとお参りの旅へ出発します。
大国主大神(おおくにぬしのかみ)こと出雲の大神さまへお参りしたのち、お告げ通り、祟りが取れて言葉を発するようになったのです。
本牟智和気王(ほむちわけのみこ)は、出雲で、一宿肥長比賣(ひとよひながひめ)と結ばれて、夜を共にします。
ところが、その肥長比賣(ひながひめ)は、実は、肥の河の精霊の大蛇(おろち)だったのです。
妻となった姫が、大蛇(おろち)となったことに、「見畏み」恐れおののき、あまりの恐怖から、船で逃げ出します。
結びを交わした夫が逃げ出したことに、心憂いた肥長比賣(ひながひめ)。怒りと悲しみとやるせない思いから、逃げた夫を捕まえようと追いかけていきます。
夜の闇の中を、肥の河を知り尽くした大蛇(おろち)は、目の光で海原を照らしながら本牟智和気王(ほむちわけのみこ)一行の船を、執拗に追い続け、もう一息で捕まりそうです。
曙立王(あけたつのみこ)よ
陸だ! 船を陸へ上げよ~
本牟智和気王(ほむちわけのみこ)たちは、山が低く窪んだところを探しだして、そこに船を着けました。
よし! みな、急ぎ、船を降りるぞ~
これからは陸路を歩いて逃げる!!
岸辺で本牟智和気王(ほむちわけのみこ)の乗った船に追いついた大蛇(おろち)の肥長比賣(ひながひめ)ですが、狭い山道を進むことはできません。
船を降りて走って逃げだす後ろ姿を、淋しそうに恨めしそうに見つめることしかできません……
大蛇の目から一筋の涙が静かに流れていったことを、本牟智和気王(ほむちわけのみこ)は知らなかったでしょう。
天皇 父の喜びの涙
やがて本牟智和気王(ほむちわけのみこ)や、お供をした曙立王(あけたつのみこ)、その弟の菟上王(うなかみのみこ)たちは、大蛇(おろち)の肥長比賣(ひながひめ)からも逃げ延びて、
大和の師木の玉垣宮へと、帰還を遂げました。
大王(おおきみ)
私、本牟智和気王(ほむちわけのみこ)一行、ただいま、出雲より舞い戻りました。
父上のご覧になられた夢のお告げ通り、
出雲の大国主大神(おおくにぬしのかみ)を
拝し(おろがみ)お参りしましたところ、
このように、言葉を話すようになりました。
ありがとうございます。
今、戻りすぐに父上にご報告申し上げます。
これまで何をしても、一度も“ものを言わぬ”皇子が
目の前で、立派に旅の報告をしています。
父として、これほど嬉しいことはありません。
喜びの涙がこみ上げてきます。
よくやった。
よくやったぞ……。
なんとめでたいことじゃ。
あの霊夢に現れた出雲の大神の仰られた通りである。
ありがたいことじゃ。
出雲の大神の、約束を守らねばならぬ。
垂仁天皇は、涙で瞳を光らせながら、嬉しそうにそうおっしゃると、本牟智和気王(ほむちわけのみこ)の後ろに控えている、お供の菟上王(うなかみのみこ)を見つめ、ある使命を出されたのです。
―次回へ
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