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別れ…生と死の世界 伊邪那岐・伊邪那美さま27神様も失敗して成長した ことの葉綴り。其の八十

千引の岩(ちびきのいは)


おはようございます。超サボり屋がテレワークのおかげで「ことの葉綴り。」80回目となりました。ありがたい。
そして、初のご夫婦神の伊邪那岐命・伊邪那美命さまの物語も大詰めになりました。

黄泉の国で、変わり果てた妻の姿を目にし、「死」を体感した伊邪那岐命(いざなぎのみこと)さま。
「ここにいてはいけない」
黄泉醜女たちや千五百黄泉軍という怖ろしい追っ手に追われながら
死者の国から脱出をこころみます。

ようやく、黄泉の国と、現世との境の
「黄泉比良坂」の坂のふもとに、たどり着きました。
伊邪那岐命さまは、神聖なる桃の実を投げて
追っ手を、追い払います。
まさに、悪霊邪気を祓ったわけです。
「葦原中つ国のものたちの苦難も
私を助けてよう助けておくれ」
と、桃の実に、意富加牟豆美命(おほかむづみのみこと)
ご神名をお授けになりました。

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もう少しだ。
そのときです。
伊邪那岐命さまの背後には
伊邪那美命さま自らが
追いかけてこられ間近に迫っていたのです。
死者の国のものとなられ醜、すさまじく恐ろしいお姿になってしまわれていました。

ここで捕まってしまっては、私も同じように
“死んで”しまう。
そして、死者の国の釜で煮炊きしたものを食べて
私も穢れてしまうだろう。
二度と、私たちの暮らす大切な葦原中つ国には戻れない……。

わたしたち夫婦が、共に産んだ島々、神々たちのもとへ
私は、なんとしても還らねばならない!
わたしたちが、高天原から降りてきたのは
天つ神さまたちから、委ねられた
国生み、神生み、よいくにをつくりあげていくこと。
それも、まだまだ道半ばなのだ。


伊邪那岐命さまは、黄泉比良坂にある
大きな大きな、
千人もがかかって引くほどの
「千引の石(ちびきのいは)」を見つけ
それを、一柱(一人)で、
必死の思いで、巨岩を動かしていきます。



いくら妻を愛していたとはいえ、
私は、黄泉の国へは来てはいけなかったのだ。
連れ戻したい! など、我一人の思いだけで
とうていできるものではなかったのだ。

とてつもなく大きな岩を
懸命に、
肚の底から力を出して
引いていきます。

なんとしても
なんとしても、
現世へと戻るのだ。
私には、まだやるべきことがある。
私たちの産んだ神々たちを遺して
ここで“死ぬ”わけにはいかないのだ~~!!

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「言戸(ことど)」離婚宣言!

伊邪那岐命さまは、とうとう、「千引の石」を
この世とあの世の境の
黄泉比良坂の真ん中に据えられて、
道を遮られたのです。


そしてこの巨岩「千引の石」をはさんで
伊邪那岐命さまと
伊邪那美命さまは
相対されました。

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やがて、伊邪那岐命さまは
意を決したように
言葉を発せられました。

神話には、
「事戸を渡した」
とあります。


伊邪那美命よ、
これを限りに
私とあなたは
夫婦の契りを解く!!


どれほど、好きであっても
未練があっても
もう、生きる世界が違うのだ。
死の国のものとなったあなたを
生の国へと戻ることはできない。
生きている私は
死の国のものになることはできないのだ。


はい。
別れの言葉を、
これは、離婚宣言を
縁を切るという決意を
愛する妻へ
あなたは、もう死んでいるのだと
死者への引導を渡されたのでした。

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夫婦、別れの言葉

それを「千引の石」の向こうで聞いていた
妻の伊邪那美命さま。

どうされたでしょう?

亡骸となられた身で、荒れ狂われたでしょうか?


いいえ。
怒りの炎を燃やされながら
夫からの離婚宣言を受けて
こう仰ったのでした。

愛するあなた
どうして、こんなひどい、むごい仕打ちをなさるのですか?!
あなたが、こんなことをするならば
いいですか。私はこれから、あなたの国の人々を
一日に千人、絞め殺しましょうぞ


伊邪那岐命さまは、愛する妻の言葉をしっかりと受け止めました。

死者の国から、命からがら脱出した伊邪那美さま。
そのご経験から、すでに、肝が据わっていました。
生と死
黄泉の国と葦原中つ国
それぞれの世界がある。
共に暮らす
そこには、もう戻れないのだ。

妻の言葉に、
ショックを受けるでもなく、
怒るでもなく
感情を荒げてケンカをするわけでもなく
こうおっしゃられたのです。

愛する私の妻よ
あなたが、そうするというのなら
私はね、一日に千五百人の子を
産ませるための産屋を建てよう

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死の宿命と生命の連鎖  

こうして、この世とあの世
生と死の世界が
区切られることになったのです。

この国では、一日に千人が亡くなるいっぽう、
一日に、新たな命が千五百人誕生することになりました。

生きるものと死するものは
別々の世界で暮らし
この「境」を、たやすくは超えることはできなくなりました。

伊邪那美命さまが命をかけてお産みになった
火の神さまの登場で
妻・伊邪那美命さまは、初の「死者」となられました。
そして、夫の伊邪那岐命さまの黄泉の国からの脱出は
「生」と「死」に
はっきりと「境」ができたのです。


これ以降、
命あるものは、必ず死ななければならない
「死の宿命」がある。

けれど、この「死の宿命」は、
同時に、新たな命を育むことができる。
そして死をも乗りこえていく。
「生命の誕生の原則」

この2つが、産まれたのです。
人は、死を経験する。
けれど生命の連鎖、つながりは続いてゆく。

死を乗り越えることができるのだ。

生命は不滅。
エターナルライフがある。
そこに、希望や救いがあるのだ……。

初のご夫婦神さまの死と別れの物語は
死生観を語ってくれています。


タイトルに、“神様も失敗して成長した”とありますが、
国生み、神生みをされた
初のご夫婦神さまの歩まれた道筋は
宇宙、生命、生と死と
とてもスケールの大きなものを
含んでくださっています。

次回は、伊邪那美命さまの
偉大なる母神、
黄泉の国での黄泉津大神
その2つの顔をさぐってみようと思います。

最後まで、お読みくださって、
いつも、ありがとうございます。

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―次回へ

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