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蛇の部屋の一夜 神様も失敗して成長した 大国主神⑥ ことのは綴り 其の二一

根の堅洲国での試練

「人生に失敗がないと 人生を失敗する」
こんにちわ。更新復帰10回目。根の堅洲国(かたすくに)で、運命の出会いをした大国主神さまの「ヒーローズ・ジャーニー」の続きです。


心優しき賢き、元祖“いじめられっ子”大国主神さまこと、大穴牟遅神さま(おほなむじのかみ)は、根の堅洲国で須勢理比売(すせりひめ)さまと一目惚れの恋におちます。

須勢理比売さまの父神須佐之男命さまは、大穴牟遅神さまのことを、「葦原色許男(あしはらしこを)」と。……この葦原というのは、地上のという意味です。
「地上からやってきた色男……こ奴が、我が娘が惚れた男か……。ふん、まだまだ弱弱しい。逞しさが足りないわ」と、感じたのでしょう。
 
須佐之男命さまは、この地上からやってきた大穴牟遅神様を、後継者にふさわしい好青年と気に入りますが、心優しき好青年だからこそ欠けている、強さ、雄々しさを鍛えあげねばならぬ。そしてさらなる上を目指してほしいと、あえて厳しい命題を与えます。


人間でも、かわいい娘の惚れた男には、父親として「イラつき」「娘はやれん」なんて思ってしまうし、興味津々でしょうし厳しくもなります。

根の堅洲国の宮殿に招きいれた須佐之男命さまは
「お前はこの部屋で寝るがいい」と、宮殿の奥を指さします。
そこは、山のがけに穴をあけてつくった岩のお部屋。
蛇の根城である「蛇の室屋」だったのです!
蛇です、蛇。しかも毒蛇……まむし!!
大きなまむしがうじょうじょです。
怖い、あまりにも怖い。

そう、気性の激しい須佐之男命さまの難題は、命がけの危ないものでした。
大きな毒蛇たちの部屋で、一晩を無事に大穴牟遅神が生き残れるかのサバイバルを課したのです。
大穴牟遅神さまの歩まれる道は、いつも困難が押しよせてきますね。
兄の八十神たちからの、悪意が根底にあった残忍な暴力や策略とは違うとはいえ、
毒蛇がたくさんいる部屋に通されて、困られたことでしょう。

「ヒーローズ・ジャーニ」の英雄の旅には、元型があります。
試練にあい、勇気を出して旅に出なければならなくなったとき、そこにサポートなる存在も必ず現れるのです。


須勢理比売の助けをうけて

このとき、大穴牟遅神さまと恋に堕ちた須勢理比売さまが助け船をだしたのです。
 美しい布を手にした須勢理比売さまは、父神に見つからぬように、その布を大穴牟遅神様に手渡し、こう告げました。
「これは蛇の比礼(へびのひれ()といいます。蛇の部屋の中で、蛇が近くにきて、あなたを噛もうと襲いかかってきたらこの布を、ゆらゆらと三度振ってうちはらってください。この布には呪力があります。この布がきっとあなたをお助けするお守りになるはずです」

大穴牟遅神さまは、愛する須勢理比売から渡された蛇の比礼をもって、意を決して蛇の室屋へ入っていきました。

そして、その夜――

大穴牟遅神様に狙いを定めて、巨大な毒蝮たちが、ゾロゾロとうごめいて近づいてきます。
大穴牟遅神様さまは、恋人の須勢理比売に言われた通りに、お守りの「蛇の比礼」を三度ゆらゆらと振りました。

するとどうでしょう。
部屋中で地を這うように蠢いていた巨大な毒蝮たちが、動きをピタっととめて静かになり小さく穴の奥の方へと引っ込んでいき、大人しくなっていったのでした。

おかげで、大穴牟遅神様さまは、ぐっすりと眠りにつくことができました。

翌朝、蛇の室屋を訪れた須佐之男命さまは、「おはようございます。昨夜はゆっくり眠らせていただきました」とさわやかな笑顔を見せる大穴牟遅神様さまにびっくりされました。

須勢理比売さまも、愛する人が、父の与えて厳しい難関をくぐりぬけたことを知り、どれほどうれしかったでしょう。
それも自分の手助けがあっての命ひろいです。

これで、大穴牟遅神様さまと須勢理比売さまの結びつきは一層強まったのでしょう。
愛する人を一心に信じる心、も見習いたいものです。

そして安心するのはまだ早いのです。

須佐之男命さまからの試練は、まだ続くのです。


次回へ――

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