傍若無人の乱暴の果てに 天照大御神 須佐之男命⑥ことの葉綴り。其の九九
姉神と弟神 こころのすれ違い
おはようございます。朝の「ことの葉綴り。」のひとときです。
“神様も失敗して成長した”
日本の神話の神さまたちは、一神教の全能の唯一神とは違います。
八百万(やおよろず)というほど、たくさんの神がいらっしゃる。
結婚のやりなおしをした、初の夫婦神。
やがて死を迎えて、初の離婚!
偉大な父神のゆうことを聞かない、末っ子は、亡くなった母神に会いたいと泣きわめく、マザコンでもあるし……。
そんな駄々っ子の暴れん坊でマザコンの神さまの物語の続きです。
父神から委ねられた仕事もなにもせず、「妣上に会いたい~」と、マザコンの末っ子はただ泣くばかり。
悪気はないというけれど、世界中の山や木が枯れ、海も川も干上がって、禍だらけにさせてしまう。
それなのに、「自分は悪くない」と、言い張って、
のんきに、姉神に会いに、天に昇ってくる。
偉大な父の最愛の姉でる姫神は、
神々のいる高天原の統治を委ねられていました。
姉神の名は、天照大御神さま。
若き姫神として、自分の使命を果たそうと、懸命です。
きっと、周りは、自分よりも“先輩”の神々だらけ。
そこに、突然、父に追放された問題児の弟が、天に昇ってきていますと、知り、大迷惑です。
暴れん坊の弟を、そうは簡単に信じられない。
何をされるかわからない。しっかりしなきゃ!
こころがすれ違った神々の国を委ねられた若き姉神と、
自分の国を混乱に落とした弟神
「神生みをして、我が身の邪心ないことを証明する」
と、弟神の提案から、
いざ、それぞれが身につけた物実(ものざね)から
神々を誕生させました。
姉神の天照大御神さまからは、立派な五柱の神さま。
弟神の須佐之男命さまからは、見目麗しい三女神様が誕生しました。
誓約の結果 須佐之男命の言い分
……え? でも、これって勝負はどっちが勝ちなの?
天照大御神さまは、「正勝」と、「私は勝った」と名前にまで、「勝」の字が入った神様も生まれてるから、姉神の勝ち?
と、思ってしまいますよね?
「先に生まれた五柱の男の子神は、我が子です。
三柱の女の子神は、物実が、弟よ、あなたのものから生まれたから、あなたの子です」
そう姉の天照大御神さまがおっしゃって、御子を、どちらの子かに分けられました。
その時です。
須佐之男命さまは、自信満々にこう宣言したのです。
お姉さん、ご覧ください。
私の心が清く明るく、邪心がなく、忠誠心があったからこそ、
私の生んだ御子は、たおやかで優しい女の子でしたよ。
この結果から、当然、私のこころが異心がないことが
証明されました~。
やった~私は、勝った~! 勝った~!
大喜びで満面の笑みを浮かべて、勇ましく叫び声を上げています。
姉の天照大御神さまは、困ったことでしょうね。
ええ? なんで? そうなの?
若き姫神は、弟のペースに戸惑われたと思います。
ここで、肝になるのは、
「男の子を産んだら勝ち」「女の子が勝ち」
といった、「決めごと」が勝負の前に、記されてないこと。
調子のりすぎ! やりたい放題の弟神
一方的に、「勝った~」と、勝利を宣言して雄たけびをあげた
須佐之男命さま。
大丈夫でしょうか?
なにせ、本人に“悪気”はなくても、
世界中に災いを起こしていたのですから。
自分の行為を顧みり、振り返ることなく
姉神との誓約(うけひ)の勝負まで
「勝った」と、自分の勝ちにしてしまった。
なんか、調子のってない!?
周りで見ていてハラハラする人いますよね?
きっと、姉神の天照大御神さまも、喜び勇んで雄たけびを上げて
外に出かけていった弟をご覧になりながら、
「大丈夫なのだろうか?」と、心配されたでしょうね。
さて、「身の潔白は証明された。私は清らかだ~」
なんて、一人思い込んだ須佐之男命さま。
ここから、調子に乗り、やりたい放題で、“しでかす”のです。
でも、きっとご本人(神)は、別にマイペース、というか自然体なのかもしれませんが……。
勝ちにまかせた勢いで飛び出していった須佐之男命さま。
最初に、姉神の天照大御神さまが、高天原につくられた田んぼの畔(あぜ)を壊してしまいます。
豊かに実った稲穂も、野菜も、踏みつけて走り回っていきます。
その田に水をひくための溝を埋めていきます。
須佐之男命さまの乱暴は、それだけではすみませんでした。
高天原では、毎年、その年の新しいお米の収穫を祝う大事なご神事の新嘗祭がおこなわれています。
その新嘗祭のさい、天照大御神さまが、ご神事をおこない新穀を召しあがるもっとも神聖な御殿に、ズカズカと上がり込んだ須佐之男命さま。足も手も泥だらけ。
清らかに吹き上げられた御殿の柱、壁、床も、泥や土で汚れていってしまいます。
なんと、その御殿の中に、脱糞……糞をまき散らかしたのです。
姉の心、弟知らず
姉の天照大御神さまは、驚かれたでしょうね。
ええ? どうしましょう?
とはいえ、弟神のしたこと……他の天つ神さまの手前もあります
決して咎めることはありませんでした。
逆に、こんな風に、善き方へと言葉を言い直されたのです。
屎のように見えるのは、きっとお酒に酔って吐いてしまったのでしょう。私の弟神が、田んぼの畔を壊したり、溝を埋めたのは、きっと耕やせば田になる新たな土地なのに、もったいない惜しいと考えたのでしょう……。
姉神には、姉神のお立場もあります……。
姉の心、弟知らず……。
姉の天照大御神さまが、なんとか尻ぬぐいをしようとした心遣いにも、まったく意に介さず、逆に、つけあがり乱暴はエスカレートしていったのです。
傍若無人・非道ざんまいの果てに
忌服屋(いみはたや)という、清らかな機(はた)を織る建物では、天照大御神さまが、天の機織女(はたおりめ)たちに、高天原の神々がお召しになる衣装を織らせていました。
あるとき、須佐之男命さまは、この忌服屋に近づいていきます。
機屋の中では、天の機織女たちが、
美しい糸を縦に横にと機織りをして
清らかで神聖な織物を織っていました。
清らかな機屋の屋根にのぼり、
大きな足で踏み鳴らすとこの屋根を壊してしましました。
機織女たちは、何? と天井を見ると、
ものすごい音とともに
屋根が壊れていきます。
須佐之男命さまは、逞しい腕で何かを持っています。
よく見ると……暴れ馬です。
その時です、須佐之男命さまは、
その馬の皮を逆に剥いだと思うと、
血だらけの馬を機織女たちに向けて、
思い切り投げ入れたのです。
ひぃ~!!
きゃぁ~っ!!
………!!
そのむごたらしさを目にしてしまった機織女たちは、
ショックと驚きのあまり
息を呑みます。
悲鳴を上げて逃げ出します。
中に一人の機織女は、あまりのショックから
理性を失い、恐怖のあまり
機の横糸を通す、梭(ひ)という道具を
陰部に突き刺してしまし、
命を落として死んでしまったのです。
最悪のことが起きてしまったのです……。
伊勢の神宮では
この今日、ご紹介した、高天原での“こと”は、
天照大御神さまが、お祀りされている
神宮、こと伊勢の神宮で、
なんと、今も、とりおこなわれているご神事です。
すごくないですか?
神話のご神事ですよ。
ご存じの方もいるかもしれませんが、
天皇陛下が、毎年、新米を天照大御神さまにお供えして
ご一緒に召し上がられる収穫のお祭り「新嘗祭」。
これは、伊勢の神宮をはじめ、全国の神社でも
毎年、執り行われています。
また、神さまのお衣装をつくる機織りも、
「言の葉綴り。」74でご紹介した
「神御衣祭」が、毎年、5月と10月に行われていますよ。
「ことの葉綴り。」百回目
さて、物語の続きは、明日!
そして、この「ことの葉綴り。」次回で
100回目を迎えます。
長文で、漢字も多く、”地味“な神話の物語に(^^)
おつきあいいただき、ありがとうございます。
感謝申し上げます。
海外在住の方も、全国の方も、
この国で生まれた、私たちの神話の物語と
そのエッセンスを感じていただき
“幸せ”を感じるきっかけになってもらえれば幸いです。
読んでくださった方、ご縁ある皆さんの幸せを
感謝とともにご祈念しております。
そして、100回目は、神話の物語
天照大御神さまの「天の石屋戸」(あまのいわやど)です!!
私も、楽しみです。
―次回へ
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