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苦しみの果てに見つけた“宝” 須佐之男命様の“変容”ことの葉綴り。其の百十三

涙の理由を聞かせて

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おはようございます。夏至の朝、早朝のお参りへ。雲の隙間からの青空が嬉しかった“サボり屋”です。
神話は今も生きている!
神様も“失敗”されて成長された物語。


“やんちゃな荒ぶれもの”は、羽目を外し過ぎての暴力
天つ罪を贖い、ご自身の身も心も清め祓い、
“孤独なアウトロー”として地上に降り立ちました。
出雲の山奥の一軒家で、出会った
年老いた父と母と、乙女。
足名推、手名推、櫛名田比売……

須佐之男命さまは、その櫛名田比売の麗しさに、
胸がときめくのを感じました

これまで「母上に会いたい」と、泣きわめいたときの思いとも、
姉神の天照大御神さまへ、“何でも許してくれうだろう”という甘える気持ちとも、違っていました。

けれども、一人の美しい乙女を挟んで、父・母、家族三人は
あまりにも悲しそうに泣いています。

須佐之男命さまは、娘を思いやる父母の姿、麗しい娘、
仲がよさそうな家族の涙のワケを知りたいと思いました。

「なぜ、あなたたちは泣いているのだ? その理由はなんなのだ?」


年老いた父・足名推は、須佐之男命さまに、その理由を語り始めます。

「わたしたちは、広い田をもち、長いあいだ、この山奥で暮らしております。もともとは八人の愛しい娘たちがおりました……。
ところが、高志(こし)に住む八俣の大蛇(やまたのおろち)が、毎年毎年、ここへやってきて、娘を一人ずつ餌食としていきました……そしてこの娘が……最後の一人で……まさにこの時期、あの八俣の大蛇がここへやってくるのです……そう思うとつらくて悲しくて……ただ泣くしかありません」

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私が守る!

須佐之男命は、足名推に、「その大蛇の形はどんななのだ?」と、
すぐに、聞き返していました

「はい。それは口にするのも恐ろしいのですが……。目は真っ赤に熟したほおずきのように燃えています
身は一つですが、頭が八つに、尾も八つもあります。
その身には苔が生えて、木も茂っております。
大蛇の丈は、八つの谷と八つの丘にまたがるほどの大きさで……
そのうえ……腹はいつも血でただれていて
……」

話していると、にわかに空が一面、雲に覆われてきます。

足名推と手名推、櫛名田比売の家族は、話ながらも震えています。
想像するにも、恐ろしく身の毛がよだちそうです……。

けれども、須佐之男命さまは、違いました。
ずっと、手名推の話に耳を傾けながら、

私には、怖いものはない。
何も、失うものもない。
何か、できるのではないか。
私が、このか弱き、乙女と父母を助けられるのではないか

いや、助けたい!
救いたい!
大蛇などに、食われてほしくない!

大切にしたい!

全力で守りたい!

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苦しみの果てに見つけた、慈愛 

誰かのために、大切な存在のために
己が全身全力で、できることをしたい。
この一家のためになりたい!!

須佐之男命さまに、初めて、そんな思いが芽生えていたのです。


気が付くと、須佐之男命さまは、足名推にこう言っていました。

「あなたの娘さんを、この私にいただけないだろうか?!」


これまで、自分のことしか、自分の欲求にしか、興味がありませんでした。
はじめて、自分ではない、誰かのためになりたい
この麗しき乙女を助けたい。
そして、これからの人生を共に生きてほしい。

須佐之男命さまは、苦しみの果てに
誰かを大切に思う、愛しいと思うこころ
慈しみの心が発露していたのです

そして、勇気を持ち、大切なもののために、
我が身をつかおうと
決心していました

もしかしたら、足名推、手名推と櫛名田比売の
両親と娘の睦まじさを見て
自分は味わったことのない、「家族」への憧れ
ささやかかもしれないが、温かいもの。
それに触れたのかもしれませんね。

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大蛇と戦うヒーローに“変身”

「八俣の大蛇は、私が退治いたそう!」


自然とそう宣言していました。

とはいえ、初めてあった強そうな神さまからの
”娘をくれ”のプロポーズ!!
言われた方の、足名推たちは、びっくり
です。

「ありがたい申し出ではございますが、あなたのお名前も知りません」

ここは、須佐之男命さま。
名前も言わずに、プロポーズしてしまっていました。
そこは天性の“おっちょこちょい”は、そのままですね。

須佐之男命さまは、息を吐き出して苦笑いします。
そして一つ大きくうなずくと、こうハッキリと申し上られました。

「私は、天照大御神の弟神。今、天の高天原から、この地上へと降りてきたばかりだ」

罪を贖い、苦しみを乗り越えて、
清らかな神の心を取り戻した須佐之男命さまは、
まっすぐに、足名推と手名推と、櫛名田比売を見つめて、
しっかりと自らの名と立場をあきらかにされたのでした

そこには、嘘偽りも、自分を大きく見せることもない
清め祓われた神としての、
もともとスケールの大きな勇壮迅速な
須佐之男命さまが立ち現われて、
光輝いていらっしゃいました

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―次回へ

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