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海路への旅立ち 海幸山幸6 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百六八

塩土老翁神の竹籠

おはようございます。戦後75年目を迎えた終戦記念日の朝、神社にお参りした後、静かに「ことの葉綴り。」に向かいます。

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兄の海幸彦の釣り針を失くした山幸彦。
なんど謝っても、自分の十拳剣で代わりの釣り針を千個つくっても
許してもらえませんでした。

浜辺で一柱(一人)ひどく落ち込んで嘆き悲しんでいるところへ
海の老賢者の神さまである塩土老翁神が現れて
山幸彦の話を、セラピストのように静かに傾聴してくれました。

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話を聞き終わると、慈しみに満ちたお顔で微笑まれ、山幸彦にこう言葉をかけたのです。

それは、それは大変でしたね。
御子どの、ご心配なさいますな。
この爺が、御子さまのために、よい工夫をしてさしあげますぞ…。
良いことをお教えしましょう。

さて、と……。

と、塩土老翁神さまは、山幸彦さまのお隣から
立ち上がり、

しばし、ここで待っておられよ。
そのうち、涙も乾くでしょう。

そういうと、砂浜近くの竹林の方へと歩いていきました。

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しばらくすると、両手に竹の枝を持って戻ってきました。

そして砂浜に座り込むと、その竹を細かく割っていきます。

その頃になると、山幸彦ももう泣いてはいませんでした。
老賢人の神のすることを、じっと見ています。

塩土老神の爺やは、何をしているのだろう?


塩土老翁神は、細かく裂いた竹を一つずつ
縦、横、縦、横と編み込んでいきます

まるで熟練した職人のようです。
静けさと手の技と、塩土老翁神の深い知恵のまなざし
そして竹と竹が交わり結びつい編まれていく音……。

山幸彦さまも、なぜか目が離せないのです。
見ているだけでもなんだか落ち着くのです。

やがて、竹で編まれたお椀型の小舟が出来上がったのです。

これは、なんと! 美しい竹籠ではないか?!

編み目もとても細かくしっかりとしています。
大きさも神一柱(人一人)乗って腰かけることもできそうです。

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塩土老翁神さまのサポート

塩土老神さまは、山幸彦さまに手を差し出しました。

さあ、御子どの。
この爺が編んだ、无間勝魔(まなしかつま)の小舟に
お乗りなされ。

いいですか? 爺がこの小舟を沖へと押し流します。
御子どのは、そのまま潮の流れにのってゆきなさい。
よい潮路になっております。
そのまま進めば、夜が明けることには、
魚のうろこのような屋根を葺いた宮殿が見えて参りまする

そこは、綿津見神(わたつみのかみ)の御殿です

その御殿に到着したらば、その門のかたわらに泉があります。
そして、その泉のほとりには、豊かに葉の繁った
神聖な、湯津香木(ゆくかつら)桂の木があります。

天孫の御子どの。あなたは、その木の枝の上に登り、待っているのです。
きっと、海神の娘の姫神が、御子どのを見つけて、うまくとりはからってくれるはずですよ。

さあ、この小舟に乗って、行かれなさい

なんと、ありがたい。

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山幸彦の海路への旅立ち


山幸彦は、うなづくと、塩土老翁神の編んだ竹の小舟に乗り込みました。

塩土老翁神さまは、山幸彦の乗った小舟を、波間へとゆっくりと押していきます。
徐々に波の流れにのって、小舟が進みだしました。

爺や、ありがとう

そう後ろを振り向くと、塩土老翁神も、頷いて静かにほほ笑みます。
そして、次の瞬間、塩土老翁神さまは、お姿を消されました。

あっ? 爺や?! 


御子どの、ご安心なされ。
爺はご一緒におりますぞ


驚く山幸彦でしたが、老賢人の知恵と慈しみ深い塩土老翁神の声が
心にしっかりと聞こえてきたのでした。

行ってくるよ、爺や。
ありがとう

山幸彦さまは、潮の流れにのって遥かなる海洋へと
流れていきました。

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―次回へ。

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