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誠心誠意詫びる 海幸山幸3 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百六五

物語を動かす感情

おはようございます。連日の猛暑、マスクをしての外出、暑いですよね。みなさん、夏バテしていませんか? 
“サボり屋”の朝のひととき、夏も白湯と漢方薬を飲みながら、
「ことの葉綴り。」に向かえました。

子どものころに読んだ方も多い海幸彦・山幸彦の物語の続きです。

天孫の邇邇芸命さまを父に、
桜の花の女神の木花佐久夜毘賣さまを母にもつ、
海幸彦こと火照命(ほでりのみこと)と、
山幸彦こと火遠理命(ほをりのみこと)別名天津日子穂穂手見命(あまつひこほほでみのみこと)。

山幸彦と海幸彦は、お互いの道具と取り換えて、
山幸彦は、兄の釣り竿を手に、海へ魚釣りにでかけますが、
一匹も釣れずに、それどころか魚に釣り針を持っていかれてしまいました。

それを知った、兄の海幸彦は激怒します。
怒りに火がついて、もう手が付けられません。

「釣り針を取ってこい」

怒りから兄の心は、かたくなに固く固くなり、

もう同じことの繰り返し。

「私の釣り針を返せ!」
「お前を決して許さないぞ!!!」

取り付く島もありません。


今の時代だと「アンガーマネジメント」なんて言葉もありますが、
ちなみに、「アンガーマネジメント」は、1970年代に、アメリカで生まれた心理トレーニング。
「怒らない」「怒りをなくす」のではなく、
怒りの感情をうまくつきあうための心理教育で、
怒る必要のあることはうまく怒り、
怒る必要のないことは、怒らなくて済むようにが目標
、だそう。

怒りも「なくせばいい」ワケじゃありません。
悲しみ、喪失感ともどう向き合う「グリーフケア」もあります

生きる上で、あらゆる感情を、「感じない」「なくす」のではなく、どう向き合うか、ケアするか、が大切なのですね。

神話でも、怒り、悲しみ、怖れ、喜びという感情は、その物語を大きく動かして、転がして展開していく熱量であり、きっかけになります。

私たちの人生でも、失恋や、愛する人の死、何かへの怒りと、大きな感情の波が押し寄せるとき、生き方をとらえなおしたり、道を変えたり、人生の転機を迎えることも多いですよね。

さて、物語に戻りましょう。

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大切なものと大切なもの

大切な釣り針を弟に失くされた、海幸彦の憤怒。
その怒りの炎は、物語をどこへ“連れていって”くれるでしょう?


海に行って釣り針を探してこい!


夜の海を、眺めながら途方にくれ涙する山幸彦さま。

どうしたらいいんだろう……。

美しい月が闇夜を照らします。

兄さんにとって、あの釣り針は大切なかけがえのないものだ。
それを、私が失くしてしまったんだな……。

釣り針がなければ、兄さんは、大好きな釣りにも行けない……。
本当に申し訳のないことをした……。

寄せては返す波の音が、
山幸彦さまのこころを、少しずつ落ち着かせていってくれました。

大切なもの……大切なもの……私にとって、大切なもので、あの釣り針をつくってはどうだろう?……。

そうだ! それがいい!

山幸彦さまは、立ち上がると、お屋敷戻られるとすぐに、
ご自身の大切な大切な、貴い、
十拳剣(とつかのつるぎ)を、手に取られました。

うん。よし。

意を決したように頷かれました。

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誠心誠意を込めた釣り針

その夜、山幸彦さまは、鍛冶場に火を焚くと
ご自身の貴い「十拳剣」を、その浄火で焼いて
真っ赤に燃え上がった貴い剣を、
カッチン、カッチンと叩き潰していきました。

山幸彦さまの額からは大粒の汗が流れています。
それでも一生懸命に、燃え盛る十拳剣を叩いて砕きます。
砕けた剣の破片を、また火で焼いて溶かし、
釣り針の形にしていきます。

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そうです。
山幸彦さまは、失くした兄の大切な釣り針の代わりにと
ご自身の、それはそれは大切な貴い十拳剣をつぶし
そこから、釣り針をつくることを決めて実行されたのです。

一晩中、カッチンカッチンという音が響いていました。
山幸彦さまは、誠心誠意を込めて、自分の剣を壊してまで、
兄へのつぐないのために、釣り針をつくられたのです。

やがて、朝になるころには、
山幸彦さまの貴い剣から五百本ほどの釣り針ができあがりました。

その釣り針を持って、兄の海幸彦さまを訪ねました。

兄さん、私の剣で五百本の釣り針をつくって参りました。
これを、代わりにお返ししますので、どうか許してください。

そう、頭を下げて、剣でつくった釣り針を差し出しました。
朝日に照らされて、五百個の釣り針がキラキラと輝いています

さぁ、お兄さんは、許してくれるでしょうか?
山幸彦さまの、詫びるこころが届くといいですね。

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―次回へ。

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