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幸村 柊
2020年8月2日 10:00
大学一年生という響きで初々しいと言われるが、もう19年も自分をしていて今更その言葉はしっくりこない。所属が変わるたびに初々しいと形容されるのはやりなおしのチャンスなのだろうか。ありがたいが数年おきに訪れる強制的なチャンスなんて余計なお世話だ。もしかしたら人間が経験を積み重ねるのを不都合におもう存在がいるのかもしれない。 19年。 今日で19歳になった。特に感慨もないし、誰から祝われることもな
2020年8月1日 10:00
ただそれでも、もっともシンプルに自分の存在を許容してもらえたことが嬉しかった。どれだけ泣いても伝えきれないほど、嬉しかった。前回はこちら。*** すっと奪われたのは既に少し冷え始めていた一本目の缶で、手から離れていく滑らかな感覚を追うように振り返ると長い黒髪が数歩先を揺れている。「ちょ、何してるんですか」「それお誕生日プレゼントね」 ふふ、と笑う学科の先輩は寒さで頬がほんのり染ま
2020年7月29日 19:00
2020年2月19日 19:00
中身の入ったビニル袋の潰れる音がした。レースカーテンのあちら側、ベランダの真ん中で風に揺られる白いコンビニ袋。何事かとベッドの上で身を強張らせていると、次は先ほどより鈍い、人間の潰れる音がした。絵の具を溢したような夏空から落ちてきた彼はしばらくして起き上がり、眉間にしわを寄せこちらを見た。身動きできなかった。その人はよく知る人間だった。同じ学科の、唯一といっていいほどに気を許し
2019年12月24日 19:00
あの子、お前の好きなもの聞いてきたよ。にやにやしながら国家機密よりも価値のある情報を教えてくれた友人は「おれにも早めにプレゼントくれたよ、お世話になってるからって言ってたけどお前のためのジャブだよなぁ」と少し拗ねていた。お前がクリスマス付近はパーティとかプレゼント交換とかでバレンタイン並に忙しくて近寄れないからじゃないか、と茶化すと、今年は論文でそれどころじゃないさ、と遠い目で外を見ながら
2019年12月18日 19:00
良かれと思って声をかけたが、後輩にこっぴどく拒絶されてしまった。ありがた迷惑、検討外れ、自己満足、浅慮、愚か。後悔したところで何にもならない。夜中に大学の研究室を抜けてきて、非常階段下の喫煙スペースで頭を抱えて煙草を灰に変える。「先輩、おれは誰かを愛してやれないのでしょうか」「どうしてそう思うの」壁に背を預けしゃがみこんでいるので頭上から声が降ってくる。事情を知らない先輩の