骨折7。化石ジェンダーの扉を開かないで。
土曜午前中の整形外科は新鮮だった。
いつものこの時間帯は、ラジオNIKKEI「中央競馬実況中継」を聴きながら洗濯や掃除、料理をしている。
普段触れない世界に入った時のファーストインプレッションはとても大事で、メモしておかないと麻痺してしまうところだ。病院だけに。
「女性自身」「女性セブン」「AERA」などが置いてある。
こういう違う環境にいる時、例えば美容院でもバスに乗っていても、イベントに参加しているときでも、おれはできるだけそこでしか見聞きできないことをしたい。しかし周りはスマホを見ていたり身内だけで話したりと普段と変わらない行動をとるのがとても不思議だ。
せっかくの機会なのに、それでは刺激もないし、退屈で死んでしまわないのだろうか。
自身とセブンの読み比べをしてみた。
女性誌を読むのはいつぶりだろうか。どちらも皇室、ジャニ、韓流、健康、美容のテンプレを通しているのは流石だ。軍配は自身にあがった。
好きなライター、室井佑月、武田砂鉄の連載があったからだ。自身の光文社はよく知らないが、将来の骨のある媒体をめざす若手か、ちょっと干されたおっさん編集者か。セブンの小学館は平均点過ぎか。
斜め読みの独断と偏見で待ち時間をつぶす。
受付のお姉さんは、阿佐ヶ谷姉妹の妹、美保さんににそっくりだった。
阿佐ヶ谷姉妹は、区役所や病院にそっくりさんが必ずいると公言していて、ホントにそうなんだと感心する。
待合室の女性は活気がある。男性は思いつめた表情だ。
美保さんの待遇はどんなものだろうか。雇用形態は、給料は。
ケアマネジャーの、大きくなったアラレちゃん的豪快姉さんは。
診察室に入った。
おじいさん先生だ。きっと外に停めてあったもみじマークの車で通っているのだろう。レントゲン技師は、気を遣いすぎて気を遣われているような若い男性だった。
アシスタントの若い女性は、顎で使われている。インターンかなにかだろうか。
この病院内の男性、女性の格差、それは「どれだけ彼・彼女らに投資がなされきたか」とイコールで、そのはっきりとした背景が如実に押し寄せ、吐きそうになった。
う・・
あれ、骨折なのに気持ち悪いんですか?
違います・・
突然、ある居酒屋で聞こえてきた会話を思い出した。
虎の門あたり。午後10時。
隣で、部長、若手、その間、唯一の女性の若手がテーブルを囲んでいる。
部長「休みの日なにしてた?」
(おれ。うわあそのテンプレ一番こまる。この質問する人っていったい何を求めている?なにもか。単に会話の糸口か。)
若手「なにもです。もう疲れて寝てまして。洗濯物を一気にやっつけましたね。あと掃除してたら終わっちゃいました」
(おれ。オッ!言葉の裏に「このブラック会社は人を酷使しすぎんだよ」激務を匂わせている。やるじゃん。しかし部長は一ミリも気づいてなさそう・・無念)
部長「キミ、もう30でしょ。誰かいい人いないの」
(おれ。え、なにそれそんな展開・・)
若手「いや~~。もうボクなんで誰でもいいです。疲れて。誰か家事やってくれる人いないかいかなー。なんでもいいです、機械でもハハハ」
(おれ。おい若手。本心じゃねえだろ。言わされてるんだよな。言わされるなよ。)
話に割って入ったのは、自分の話がしたくて口がウズウズしてた「その間」さんだ。自分の家庭のエピソードを語り始めたがちょっと浮き気味だ。
部長は、のっぺらぼうのような、三谷幸喜似の特徴のない顔。
若手は、腹に一物抱えていそうな濃い顔立ちだが、完全に会社プレイに徹する。
若手女性は無理もない、会話に入れず、一生懸命にこにこしている。
(おれ。行きたくないけどちょっとでも仕事に役立つことがあればと無理して来てるのだろうに。嫌な部分見せるんじゃなくて誰かケアしてあげろよ。)
独り暮らしだと、家事や手続きで休日が終わるのは当たり前だ。
家事は楽しい。
部長は人生の多くの楽しみを逸しているし、興味もない。家事はパートナーである女性がするものという化石圧力を押し付けるパワハラだ。
噂では聞いていたが、本当にこんな時代錯誤なコミュニティがあるのかと驚いた。
部長がいつ若手女性にセクハラの水を向けるか心配で仕方なかったが、自分の席も盛り上がってきたのでその先はわからない。
忘れていたと思っていたこの違和感は、澱のように心のどこかに沈んでいて、性差が如実な現場に直面し、試験管が揺らされふわふわ舞い上がってきたのだろう。病院だけに。
スマホでゲームでもしてればよかった。
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