香月虹奈

言葉を紡ぐ人。 将来の夢は絵本作家になることとイギリスに住むこと。好きなものは、自分の…

香月虹奈

言葉を紡ぐ人。 将来の夢は絵本作家になることとイギリスに住むこと。好きなものは、自分の家、コーヒー、月、図書館、空気のきれいな所、パン、何かを作ること、仕草が美しい人。 新月と満月の夜に更新。

最近の記事

【創作大賞2024応募作 エッセイ部門】一人暮らし女子の初めての週末

一人暮らしを始めて、最初の一週間が無事終わった。 子どもの頃から憧れていた一人暮らし。 夢が叶った喜びであふれているかと思っていたけれど、実際はそれほどでもなく、というよりも、そんなことを考えている余裕もなかった。 朝は寝坊しないように目覚まし時計を何個もセットして頑張って起きて、朝ごはんの準備をしながら身支度をして出勤して。 会社が終わったら食料品を買うためにスーパーに寄って重い食材を持って帰って、夜ごはんのために料理をして。お風呂の準備もして、洗濯もして、次の日寝坊しな

    • メロン行進曲

      友人とあるお店にモーニングを食べに行くことになりました。 前日に場所を調べるついでにメニューを見ていると、「メロンのパンケーキ」という文字を発見! 思わず声を上げてしまいました。 なぜなら私は果物の中で一番好きなのがメロンだから! でも朝ごはんだしなぁ、と一応迷ってみる私。 私は朝ごはんはしっかり食べる派なので、カフェでモーニングを食べる時もその信念を貫きます。 そのお店にフルーツサンドがある場合は例外ですが、そうではない時は「ザ・朝ごはん」を選びます。 でも今回も例外に

      • 【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第22話<終>

        【第1話】  【前話】 お酒のせいで頬を少し上気させた蒼くんが満面の笑みで言った。 「今日はほんっとにありがと。記念すべき30歳の誕生日を二人に祝ってもらえてうれしいよ」 誕生日である今日、どうしても仕事を入れたくないと半年以上前からマネージャーに言っていたらしく、その甲斐あってか、昨日と今日が終日オフだった蒼くん。タイミング良く「風邪をひいて」会社を休んだ慎一くんとともに昨日から一泊旅行に行っていた。 お祝いだから、と奮発したらしく、二人は大御所芸能人御用達の隠れ家的な

        • 【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第21話

          【第1話】  【前話】 私たちはリビングに移動すると、慎一くんの言葉を待った。 「今すぐじゃなくていいし、いつかでいいんだけど」 そう前置きをした慎一くんを、私たちはじっと見つめる。 「……体外受精だったらできるんじゃないかな、って思ったんだ」 慎一くんが静かに話し始める。 「まだ詳しく調べていないから、どれほど体の負担があるのか、費用はどれくらいかかるのか、とか全然分からないけど、俺たちの心の負担は一番少なくて済む方法なんじゃないかって」 「あ……」 私も体外受精がど

        【創作大賞2024応募作 エッセイ部門】一人暮らし女子の初めての週末

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第20話

          【第1話】  【前話】 階段を上り切ると人の姿が目に入った。 柵にもたれかかってしゃがみ込んでいるけれど、そのシルエットには見覚えがあった。 私はゆっくりと近付き、 「蒼くん?」 その人影に私はそっと声をかけた。 自分を抱きしめるみたいに小さく丸まったその背中は、まるで今にも消えてしまいそうなくらい儚く見えた。 蒼くんはゆっくりと振り返り、声の主が私だと分かると、張り詰めていた周りの空気をふっと緩ませた。 そして蒼くんは泣き出しそうな顔で笑いかけてきた。 「ヒナコ……」

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第20話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第19話

          【第1話】  【前話】 久しぶりの3人での夕食の席で、突然蒼くんが言い出した。 「俺の本音を言わせてもらうと、慎ちゃんの子供は見てみたいな」 私たちはぎょっとして、蒼くんに注目した。当の本人は素知らぬ顔で箸を口に運び続けている。 「あ、蒼くん?昨日のあの話は……」 言いかけた私を制して、蒼くんが続けた。その表情は、なぜかとてもにこやかだった。 「大好きな慎ちゃんの子供だよ?会ってみたいと思うのは当然でしょ?だから、ヒナコ、頼んだよ」 「蒼……」 「そうかもしれないけど、でも

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第19話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第18話

          【第1話】  【前話】 母親とこうして並んで料理をするのは、大人になってからは初めてだった。 私がもう結婚したということや、ここが私の新居であるということを忘れて、幼い頃の思い出が蘇る。 母親の指示通り大きさを揃えて野菜を切ったり、恐々と肉の脂身を取ったりしていた頃が懐かしい。 「だいぶ手つきが慣れてきているわね」 私が大根の皮を剥いていると、隣で母親がそう言った。 「毎日ちゃんと作っているのね。安心したわ」 その言葉に私は満足した。やっと母親に安心させることができた。

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第18話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第17話

          【第1話】  【前話】 「来週末にね、母が家に来たいって言ってるんだけど、どうしたらいい?」 私は夕食の時に二人に問いかけてみた。今朝母親から電話があり、その申し出があったのだ。 「来週末にお父さんが同窓会で旅行に行ってて留守なのよ。あなたの家にもまだ泊まったことが無いし、この機会にお邪魔してみようと思って。慎一さんのご都合はいかがかしら?」 浮かれた口調の母親に圧倒されて、私は言葉が出てこなかった。 結婚して家を出てから約半年がたっていた。 新居のお披露目以来、私たちの

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第17話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第16話

          【第1話】  【前話】 その日、実家から帰宅すると家の中の雰囲気がいつもと違っていた。 (何が違うんだろう?) 私が「ただいま」と言えば、先に帰っていた二人はそれぞれ「おかえり」と言ってくれる。それはいつもと変わらない。 私は間違い探しをするように、家の中をぐるりと見回してみる。たった一泊の留守が、私を浦島太郎にしているのだろうか。 違いが分からず首を捻りながら諦めてリビングを出ようとした時、ようやくあることに気が付いた。 二人が離れて座っているのだ。蒼くんはソファに、慎

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第16話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第15話

          【第1話】  【前話】 勤めていた会社の同僚でもある親友と久しぶりに食事に行くことになり、彼女の終業時間に合わせて私は家を出た。 平日の夕方ということもあって、街も電車も会社員で溢れている。 ついこの前までこの中に私もいたんだなぁ、と思うと、なんだかこの混雑も懐かしく思えてくる。 約束している店に入ると、彼女はまだ来ていないようだったけれど、代わりにシェフが「久しぶり」と、満面の笑みで迎え入れてくれた。 会社からわりと近いところにある隠れ家風のイタリアンは、私たちの馴染み

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第15話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第14話

          【第1話】  【前話】 久しぶりに寝坊した慎一くんが慌ただしく朝食を終え、「いってきまーす」と言いながら嵐のように玄関を飛び出していった。 そんな彼を今日は蒼くんと一緒に見送った。 リビングに戻ろうとすると、「ちょっと待って」と呼び止められた。私が立ち止まると、何かを企んだような顔で蒼くんが私に耳打ちをしてきた。 それは、来週に控える慎一くんの誕生日パーティーの計画を一緒に立てよう、というものだった。 「だから、夜ごはんは外で食べよう」 「今日の夜?」 「うん、空けとい

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第14話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第13話

          【第1話】  【前話】 「慎ちゃん、遅いねぇ」 蒼くんがリビングのカーペットにうつ伏せに寝転がったままつぶやいた。 珍しく午後からオフだった蒼くんと二人きりの夕食を済ませた後のことだった。 キッチンで洗い物をしている私に対して言った言葉なのか独り言なのか分からなかったけれど、とりあえず私は「今日は残業なんだって。さっき連絡来たじゃない」と返事をしてみた。 「それにしても遅すぎるよ」 蒼くんに言われて時計を見ると、もうすぐ21時になるところだった。 会社員だったら21時まで

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第13話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第12話

          【第1話】  【前話】 ピンポーン 昼間に鳴り響く玄関のチャイム。私は思わずびくっとしてしまった。 (こんな時間に何だっけ……?) 普段鳴らない時間帯のチャイムは、妙に私を怯えさせる。宅配便?友達?それとも……? いろいろ頭に思い浮かべて警戒しながら、インターホンを取ると、 「ヒナコ?開けて……」 弱々しい蒼くんの声が聞こえた。 「ど、どうしたの?すぐ開けるから、ちょっと待ってて!」 私は慌てて玄関に走り、勢いよくドアを開けた。 そこには真夏にもかかわらず長袖のシャツや

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第12話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第11話

          【第1話】  【前話】 私の目の前にはアイドル雑誌が置かれている。 買い物帰りに覗いた本屋の雑誌コーナーで、「ナガレボシ大特集!」の文字を見付けて、思わず手に取ってしまったのだ。 大量に買い物をした後だったので、重い荷物を持ったまま立ち読みするのは辛かったこともあって、雑誌を買って家でじっくり読むことにした。 アイドル雑誌なんて買うのは何年ぶりだろう。中学生や高校生の頃は、好きなアイドルが特集されている雑誌は毎月のように買っていた。 周りから見ればもう大人という年齢の今の

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第11話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第10話

          【第1話】  【前話】 蒼くんはものすごく寝起きが悪い。しかしそれに輪をかけて悪いのが慎一くんだった。 基本的に食事は全員で摂る、と私たちは決めていたけれど、共同生活が始まって数週間たった今日の時点で、3人揃って朝食を摂ったことはまだ一度も無い。 彼らの寝室には入らないことに決めているから、起こしに行くことはできないし、そもそも部屋に入りたくもない。 だから、その分リビングで大きな音を出したり音楽をかけたりしながら極力彼らを起こそうと努力をするのだけれど、それが成功した試

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第10話

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第9話

          【第1話】  【前話】 どうしても断ることができず、慎一くんと私の両親は引っ越し当日に手伝いに来ることになってしまった。 両親が期待していた結婚式を断ってしまった手前、彼らの申し出を断り辛かったことが大きな理由だった。 来訪を断ったことで万が一両親を怒らせて結婚式をさせられては困るので、慎一くんも私もしばらくは大人しくしておくしかない、ということで意見はまとまっていた。 それに、二人とも今まで実家暮らしをしていて、この結婚が事実上初めての独立となるわけだから、両親の心配が

          【創作大賞2024応募作 恋愛小説部門】青が満ちる 第9話