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【詩】自然が後退する
春の朝
聞こえて来ていた
カッコウの声が
いつの頃からか
聞こえなくなる
近くの丘には
クロユリとスズランの花が咲いていた
でも
すっかり宅地になってしまった
自然が後退する
ぼくたちから遠去かる
夜の星も
街の光に
見辛くなってきた
そういえば
あの美しい瑠璃色の紋を持つ
カラスアゲハはいったい
どこに行ってしまったのだろう
空高く飛んでいた
オニヤンマは
誰のものでもない空き地で
【詩】一番遅くに咲く花
もう季節は過ぎてしまったけど
次の季節の花が咲き始めているけど
忘れられたかのように
咲いている
一番遅くに咲くのは
理由があって
あんまり
日当たりが良くなかったり
土地が肥えてなかったり
あるいは
人から見放されていたり
それは
咲かないギリギリのところで
育っていたのかもしれない
一番遅くに咲くのは
実は幸運だったのかも
最後の最後で
光が舞い降りた
【詩】テクノロジーに勘違い
人は易きに流れる
テクノロジーは
ダメな人間を
とことんダメにする
乗り物ができると
歩かなくなる
電卓ができると
計算しなくなる
人工知能ができると
考えなくなる
娯楽が溢れると
遊びがなくなる
情報に囲まれると
実世界を見なくなる
これでもか
と言うくらいに
次から次へと
提供される
便利と欲を叶える
文明の利器の数々
***
あたかも
自分の世界が
広がったかのよう
【詩】ゼロから作りたい
自分は技術者だった
製品を作ることに携わっていた
一つの製品を作るには
(ざっくり言うと)
企画
市場調査
設計
製品を作る工程を検討
スケジュールを決め
製品を作る各部署に手配し
実際にものを作る
(ここだけで数百の工程がある)
作ってみて
仕様通りにできていたら
製品出荷
そうやって
出来上がった製品を
手にとってみる
手のひらに載るほどの大きさ
指先に載るほどの大きさ
ここに至るま
【詩】そんなことないよ
いくつかの詩を読んでみた
自分を否定的に語る内容が
多いと感じた
ダメに感じたり
無力に感じたり
汚れているようにさえ
あるいは
自分の中に
悪の部分を
見てしまったり
苦しく感じるのは
仕方がないかも
知れないけれど
そんなことないよ
あなたの作品は
形になっているよ
他の人が共感するほどに
詩を作ることは
かけがえがない
詩を作ることで
救われていたと
そう思える日が来る
【詩】出会っているのに気付かない
数十年という隔たりが
そうさせるのだろうか
懐かしい顔の数々
多くは過去に消えたが
いつまでも残り続ける
大切な人と思い出
この街で
再び戻ってきた
この街で
再会がないのは
どうしてなのだろう
それほどに時が
経ってしまった
そのように
納得するしかないのか
もし
出会っているのに
気付かないとしたら
忘却よりも遠く
悲しみよりも哀しく
涙を流す機会は
失われたまま
【詩】消滅するタイトル
紙のホルダーに貼られたラベルが剥がれる
中の資料は何も変わらない
文書のタイトルが消える
本文は何も変わらない
文庫本の背文字が消える
他の本も
本棚そっくり
表紙の文字も
示しとなるものが
消えて行く
結びつけるものが切れて
それぞれが離れて行く
中身は何も変わらないのに
約束が一つ消えただけ
見失えば
それっきり
動揺は続き
明け方には
金星も沈んだ
***
そうそう
【詩】結ばれると思える時が
何度も夢見たこと
あなたと結ばれること
あなたの肩に
頬を寄せる
それだけのこと
小さな声で鳴いてみる
みゃぁ
自分でもまだまだ
幼いと思う
愛を知るにはまだ資格がないのかな
にゃぁ
大人の声で鳴いてみる
結ばれることなんてない
あなたは言ったけど
信じない
信じたくない
信じられない
こうして今ここに
いっしょにいる
あなたとわたし
大人の猫と
小さな猫
いつか結ばれる