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韓国映画「殺人者の記憶法」感想

中年に差し掛かってからというもの、物忘れが多くなった。
若い頃はもっと神経が細やかで、しんどい記憶を含めて色んなことをいつまでも忘れられない自分がいてとても嫌だった。
それを思うと、年を取るのも悪くないなと受け止めるのだが、若い頃に職場の中年のうっかりミスに苛立っていた自分を思い出し情けなくなってしまうのだった。
あの頃苛立ちの先にいた人々に追いついた自分を嘲笑うと共に、この物忘れはどれくらいの速度でどこまで進むのだろうとぼんやりと考える。
身内には認知症になった者はいないが、人生何が起こるかわからない。
そもそも遺伝するものなのかも知らない。
どのような未来があったとてそれを受け止めるしかないのだ。
忘れるというのは悪いことばかりではない。
そのことだけは覚えておきたいと思う。
忘れちゃうのかもしれないけど。

この映画の主人公である男性獣医師は、ある日車の追突事故を起こしてしまう。
主人公は、不自然な発言を続ける被害者の若い男性が連続殺人事件の犯人なのではと疑いをかける。
それは密かにいくつも殺人を犯してきた主人公の直感からのものだった。

主人公は娘と二人暮らしをしている。
しばらく前から認知症が始まり、娘に助けられつつ病気とうまく付き合いながら暮らしているつもりなのだが、症状はゆるやかに進み、生活に支障が及ぶようになっていく。
そんななか、娘に恋人が出来る。
その恋人は主人公が連続殺人事件の犯人として睨んでいる男だった。

題名や主人公の不気味な風貌からひたすら怖い話なのかと思いきや、笑いどころもあって最初からグイっと引き込まれた感触があった。
主人公を演じるソル・ギョングの怪演は迫力があり絶品。
比べて主人公が連続殺人事件の犯人だと目をつけている警察官の若い男を演じるキム・ナムギルが少し力量不足。
見た目はキレイで色気もある魅力的な男性なのだが、俳優としてはなかなかお芝居がうまくならないのが残念。
娘を守ることを必死に考えつつも、記憶が曖昧になったり妄想も始まったりと主人公の鬼気迫る戸惑いに観ているこちらも振り回される映画。
認知症になると、この主人公のように心が色んな事象に揺さぶられまくるのかと負の可能性に底知れぬものを感じるのであった。

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