スイミングバスの人生相談
一歩も家を出ずにこたつと一体化して過ごしていた年始、年賀状を出しにポストまで行くと白い月と冬の風が
自分という生き物を一瞬で爽やかにしたのでしばらく外で立っていた。
ポストの近くで呆けていると、年賀状を持って走ってくるメガネをかけた男の子や、年賀状を手に何かの歌を口ずさむおじいさんに出会った。部屋着ノーメイクでこれ以上ボーッと立っているのは怪しまれる可能性が高いので家に帰る。
何のドラマも生まれない風景。数日前に脳の難病である父がまた車の免許を取ろうとしていた。母と私で必死で止めたが、あと何年これが続くのかと思うと少し途方に暮れる。
今日も元気な謳い文句のサプリメントが届く。これを飲めば人類は皆健康に長生きするらしい。父の脳を写真に撮ると半分くらい萎縮してヘンテコな形になっているそうだ。それでも人は健康になりたくて錠剤をネットで注文できる。脳みそって不思議だ。
数日後 母の車に乗ると、ラジオで人生相談が始まった。オープニング曲が流れた瞬間にスイミングに向かうバスの車内をぶわっと思い出した。行きのバスは決まってこのラジオが流れていた。バスの匂いや自分の特等席。
音や匂いは急に脳みその引き出しを開けてくることがある。でもポストでおじいさんが口ずさんでいた歌のタイトルは思い出せない。
脳みそって不思議だ。
年末年始、堀静香さんと永井玲衣さんのトークイベントのアーカイブを少しずつ聞いて過ごした。生まれて初めてトークイベントというものを聞いたけど、お2人の殴り合いのような対話が、出てくる言葉の組み合わせが、脳みそにビリビリと効いた。
今年は自分の脳みそが喜ぶ言葉を積極的に摂取していきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?