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物理学の悪魔は古代から実在していた!

前回、物理学で有名な「マクスウェルの悪魔」を解明する歴史について触れました。

ようは、
悪魔の作業に情報理論を組み込むことでエントロピー増大則は統計的には崩れない、
というはなしです。

ただ、あくまでこれは「思考実験」であって、現実に悪魔は存在しません。

・・・と思い込んでいたら、マクスウェルの悪魔を発見したという記事を見つけました。今回は補足として紹介したいと思います。

ようは、
細胞膜で物質を仲介する輸送器官がマクスウェルの悪魔と同じふるまいをみせている、
という話です。

この輸送機能を持つ物質は「ABC(ATP-binding cassette)トランスポーター」と呼ばれます。カッコ内のATP(アデノシン三リン酸)を補足すると、生命活動のエネルギーを生成するポンプのようなものです。その役割から「生体のエネルギー通貨」と例えられることもあります。

ABCトランスポーターの主な役割は細胞内外に必要・不要なものを取り込んだり排除したります。

論文内の図が分かりやすいのでそのまま引用します。

上記論文内の図(小さな緑円が開閉の動力となるATPを指す)

専門用語は気にせずに、これとマクスウェルの悪魔の動きを比較してみます。改めて前回使った悪魔の作業イメージ図を再掲します。

Wiki[マクスウェルの悪魔]

悪魔は境界で、扉を隔てた小部屋が平衡にならないように意地悪をするイメージです。

同じように、ABCトランスポーターは細胞膜内外を平衡(同じような成分)にならないように、ある特定の物質を見つけると扉を開閉(その動力がATP)して送り届けます。

少々細かいですが、両者を比較的に表した元論文内の図も載せておきます。(専門用語はスルーで。。。)

上記論文内の図

驚くべきことに、このABCトランスポーターは、我々の細胞(細かくは核を持つ真核細胞)膜だけでなく、古代(地球誕生後10億年たって細胞っぽいものが誕生と推測されています)から存在した細胞(核がない原核細胞)膜にも存在していることが分かっています。

しかも、開閉を識別する物質の種類に応じて色んなタイプがあることが分かっています。日本企業に言い換えると、クロネコヤマトだけでなく佐川急便や日本郵政など色んな輸送業者がある感じでしょうか。

細かくはまだ仮説の段階ですが、仮に正しいと仮定すると、我々の生命現象の原動力が垣間見えて非常に興味深いです。

生命科学の世界で未だに名著とされるシュレディンガー著「生命とは何か」という書籍があります。

生命現象を初めて物理学的(還元的に)にとらえようとしたのが画期的で、これに刺激を受けて物理学者から生物学者に転向した人が増えたという逸話もあります。(DNA二重らせん発見者の一人もその系統)

このなかで、
「生物体は負のエントロピーを食べている」
という有名なフレーズがあります。

前回の悪魔探求話で、エネルギーを生成する作業(悪魔の仕事)でエントロピー増大することはわかりましたが、その作業成果だけ見るとまさに「負のエントロピーを食べている」行為に見えます。

生命という神秘的な現象も、細胞レベルまで落とし込むと、エネルギーの流れに逆らう行為に帰着されるのではないか、と感じました。

もっと言えばそのエネルギー逆流に至った原因こそが、「生命の起源」なのかもしれません。


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