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物理学の長きにわたる悪魔との闘い

以前に、悪魔憑きについて触れました。

ようは、
悪魔に取りつかれたのは、自己免疫疾患の可能性がある、
というはなしです。

生命科学の視点で悪魔という観念に切り込んだわけですが、物理学の世界でも有名な悪魔退治のストーリーがあります。

それは「マクスウェルの悪魔」と呼ばれているものです。

名称は、電磁気学を完成させた大物理学者マクスウェルの発案からです。(名付け親はケルヴィンと言われています)

マクスウェルは、熱力学第二法則「エントロピー増大則(一定の条件では無秩序性が常にます)」を否定する「悪魔」を召喚しました。

下記の図を使って簡単に説明します。

Wiki「マクスウェルの悪魔」

上左図のように、この悪魔は個々の分子(温度は分子の運動エネルギーの統計的なもの)のうち、速く動くものだけを見極めてA→Bに門戸を開けます。

すると上右図のように、AとBが秩序だって遅い・速いグループに分けられるという熱力学に反した結果となってしまいます。

一見幼稚な思考実験に見えるかもしれませんがなかなか良い反証は出ませんでした。
唱えて半世紀がたったころ(20世紀前半)に、シラードという科学者が
「悪魔の門戸開閉でエントロピー増大するのでは?」
という仮説を提唱しましたが、その後の実験で否定されました。

そしてさらに半世紀(合わせて100年以上!)たってもこの謎を解く名探偵は現れませんでした。

解決の糸口になったのが、コンピュータ科学、もっといえば情報理論の専門家の登場です。

最大の貢献者を二人あげると、ロルフ・ランダウアーとチャールズ・ベネットです。(前者の考えを拡張したのが後者)

彼らは「コンピュータの計算」という行為とエネルギーとの関係について研究します。こちらについては過去にもふれたので関心のある方はどうぞ。

結果だけを書くと、
「マクスウェルの悪魔は無制限に分子を認識し記憶することができず、記憶消去時にエントロピーは増大するため、法則は破れない」
と結論づけました。

情報という概念を物理学に当てはめることでやっと悪魔の所業を理解出来た、というわけです。

ただ、完全には悪魔祓いに成功してないことが判明します。

実はベネットは上記結論にある仮定を置いていました。
それは特殊な条件(厄介なので流します)であることを日本の科学者たちが証明し、それを定式化に成功します。

これで実に悪魔召喚から150年が経過したことになります。

日本のメディアでもわかりやすくその解説が出ているので1つ引用します。

ポイントは、単に記憶消去したから結果増大、という単純なものでなく、
「計測と消去という作業量の総和には下限がある」
ということのようです。

差分だけ砕いて書くと、
「計測」という作業は、それをする人とされる人(擬人化してます)の相関関係を情報量として組み込む必要がある、ということのようです。

何となく雰囲気としては分かりますね。

個人的には、この「情報」という一見バーチャルな存在が、思った以上に物理世界に影響を与えているのがとても興味深いです。

最新の実験では、この思考実験を再現しようとする動きも見られます。

単なる学術的な興味だけでなく、どうも実用性のある応用にもつながりそうな雰囲気です。

が、またきちんと理解が追い付いていないので、改めて調べてみたいと思います。

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