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シンギュラリティな話(その2):裸の特異点?

前回、改めて騒がれている「シンギュラリティ」という言葉の由来について触れました。

ようは、
元々は数学用語で、一般相対性理論の解で現実世界での接点が生まれた、
という話です。

今回は、この宇宙でのシンギュラリティ(特異点)についてもう少し触れておきます。

前回ふれたように、宇宙物理でのシンギュラリティは、
1.天体(単一の物質)
2.宇宙自体(過去)
に大別され、1はペンローズ、2では後輩にもあたるホーキングと共に取り組んだことは前回触れました。

で、1についてはシンギュラリティ=ブラックホールのコア、というイメージを持つかもしれません。
が、本来の定義は「よろしくない状態」なので、具体的にどういった状態でブラックホール内に存在しているのかは、(公開情報見る限り)厳密にはまだわかっていません。

アインシュタインも当初存在の否定はしましたが、一応特殊な時空構造案も提示していて、今でいう「ワームホール」のプロトタイプのようなものです。過去の投稿記事を引用しておきます。

また、ブラックホール自体は1970年代に初めて観測され、その基本的な構造が見えています。こちらも以前の投稿を引用しておきます。

コアを取り巻くのが、「事象の地平面(event horizon)」と呼ばれる光ですら抜け出ないとされる境界線です。

ただ、元々の一般相対性理論ではこの地平線の存在を必ずしも前提にしておらず、それをまとわない「裸の特異点(naked singularity)」と呼ばれるものも数学的にはありえます。(名付け親はペンローズです)

事象の地平面という服があれば裸(内部)は見れない。物理的に言い換えると光すら到達できないので(やや飛躍ですが)我々が考案した物理法則で説明しなくてよい、と、ある意味流すことが出来ます。

ただ、「裸の特異点」があると無視出来ず、それをどう科学法則で説明するのかは、シンギュラリティ(存在してはならない状態)であるがゆえに厄介です。

そこでペンローズは、「裸の特異点は存在しない」という仮説を唱えます。
これは英語で「Cosmic censorship hypothesis」と書き、和訳すると「宇宙検閲官仮説」と呼ばれます。

この仮説にも、「弱い」「強い」と別れており、ざっくり言い換えると「見えてはいけない」「存在してはいけない」という違いです。

例えば、日本の江戸時代では西洋からの書籍は禁止されてましたが、それは「弱い」に相当し、そもそもその西洋の書籍自体の存在を否定するのが「強い」というイメージです。

現時点においてですが、形状によってはこの仮説はやぶれるのではないか?という指摘もでています。

きっかけの一人を挙げると、重力波検出でノーベル賞を受賞した一般相対性理論の大家キップ・ソーンという方です。

ノーベル賞以外だと、SF映画「インターステラー」の科学監修としても知られています。作品中のブラックホール描画は彼によるものです。

ソーンは、輪っかのような形状であればシンギュラリティは存在する、とする案を1972年に提唱しました。(フープ仮説)

当初は議論は深まりませんでしたが、1990年代以降になると高度なコンピュータシミュレーションができるようになり、特殊条件下(形状や次元を工夫すれば)ありえるかも、という評価がされています。(コンピュータシミュレーションなので検証とまではいきませんが)

ということで、光が無限遠に到達する(見える)か否かを問う「弱い」宇宙検閲官仮説は、但し書き付きで反例が出ており、勝負つかずな状態です。

ただ、この仮説が派生して、以前にも触れたホーキングによる「情報パラドックス」と、その解明につながる「ホログラフィー原理」といったように、最新のブラックホール最新研究に繋がっており、その意味では極めて意義深い仮説です。

関連ですが、2023年3月に従来理論の修正を迫る仮説も提唱されています。

ということで、今話題の技術的特異点(technological singularity)だけでなく、元祖である宇宙のシンギュラリティも熱いという話でした。

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