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量子力学(物理)×化学=量子化学

前回、2回ノーベル賞を受賞したシャープレス氏の1度目の受賞内容について触れました。

2度目の受賞は歴代5人目で、その中で、物理と化学のはざまを開拓したのが、ライナス・ポーリングです。

ポーリング氏は、化学反応が原子レベルでどのように結合されているのかを探求した成果が認められて1954年に受賞しました。

個人的に最も画期的だったのは、当時物理の世界で評価が認められてきた「量子力学」の考え方を化学に導入した点です。
今では、ポーリング氏が開拓した分野は「量子化学」と称して、コンピュータ科学の世界も深く絡んできています。

駆け出しのころは、ゾンマーフェルトボーアシュレディンガーの下で学びました。

彼らは、物理の革命的な理論となった「量子力学」のパイオニアたちです。

一言でいうと、原子など超ミクロな世界で通用する理論で、一番特徴的なのは、位置や運動量を観測して初めて確定できる点です。それまでは確率的にしか表現することはできません。(それを表す式で有名なのがシュレディンガー方程式
それまでの科学は、観測者(我々)と別に存在する客観的な事象を方程式で事前に確定するのが常識であったため、初期は論争が沸き起こりました。
その中でも、師匠の一人ボーア氏は、コペンハーゲンで学んだ派閥を束ねた「コペンハーゲン解釈」とも呼ばれるほど初期理論を牽引した重鎮です。
あのアインシュタインとの科学論争は伝説ともいえる歴史上のエピソードです。過去にそのあたりの経緯を書いたので引用にとどめます。

ポーリング氏は、師匠の下で学んだ量子力学を、実際に原子・分子間でどのように作用しているのかに関心を持ちました。

分子は原子間の結合で成り立ちますが、それまでは主に「イオン結合」というイオン状態(電気を帯びた原子・分子)での電気的な引力が中心でした。
ちなみに、ニュートンが唱えた万有引力はあまりにも相対的に小さすぎるので、化学の世界ではほぼ無視することが出来ます。

ただ、このイオンとは結局プラスの原子核(の陽子)とマイナスの電子に還元されるため、結局はその状態に依存されます。
つまり、究極的には原子モデルのありように影響されます。

量子力学が唱えたのは、原子核の周りにある電子は粒子が動いているわけでなく、さながら雲のようにその場所がゆらいでいるイメージ像です。

その場所をシュレディンガー方程式で記述するわけですが、厳密解は水素原子単一が限界で、それ以上原子が合わさると、複雑すぎて近似解でしか求められません。
複雑で、それを2つ合わさった分子になると、それぞれの電子軌道が合体して、新しい結合電子雲と呼ばれる軌道を描きます。そこでの電子はそれぞれの原子核と共有状態になり、その力を「共有結合」として働きます。

ポーリングはこういった性質を量子力学の原理から説明することに成功しました。単純な水素分子での共有結合の仕組みだけでなく、そこから「混成軌道」という概念を唱えて、より複雑な有機物質への応用の道を拓きました。このあたりは「構造化学」という呼び方もされ、その開拓者でもあります。

なにより画期的だったのは、それまでの化学が実験結果から帰納的に導出したのに対して、そこに物理学でのアプローチ、つまり原理から仮説検証というスタイルを持ち込んだことです。

なお、この原子間の結合法則はポーリング氏の初期(20代)研究で、その次にもう少しマクロな生命科学(生化学)の研究に向かいます。
実はDNAのらせん構造もポーリング氏が早々に提唱しており、あいにく「3重らせん」という誤った仮説で歴史的にはあまり知られてませんが、後年の「2重らせん」発見に貢献しています。

戦後には実社会の抱える課題に分野を超えて積極的に関わっています。

例えば戦後は核実験反対(実はオッペンハイマーとの関係が深く、マンハッタン計画も勧誘されたほど)運動に注力して、二度目はノーベル平和賞の受賞です。

変わったところだと、環境問題にも関心をもち、なんと史上初の電気自動車の開発にも貢献しています。(タイトル画像はその初代モデル)

その研究成果もすごいのですが、何よりも、異分野を越境したパイオニアとしての生きざまが個人的には最も尊敬するところです。

彼が開拓した量子化学は、まさに今コンピュータの進歩(アルゴリズムと処理速度)で異分野参入含めて面白い時期に投入しています。

今後もこの分野はホットなので注目していきたいと思います。

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