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セッション定番曲その59:Georgia On My Mind by Ray Charles, etc.

R&D系のセッションでの歌モノ定番曲。ゆったりとしたテンポで演奏されることが多いですが、シャッフルにアレンジしても面白いです。タイトルからして「ご当地ソング」っぽいですが、どんな内容なのでしょうか?
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:我が心のジョージア

米国南部のジョージア州、どんな素晴らしい所なのでしょうか?
私も行ったことないので、調べるしかないのですが、例によって白人達がネイティブアメリカンを追い出して開拓した土地(彼らをミシシッピ州に大量移動させて、その過程で多くのチェロキー族が亡くなった)で、南部州らしく最後まで(黒人)人種差別が蔓延っていた地域のひとつ。

レイ・チャールズが歌ったこの歌は1960年に大ヒットしましたが、当人はジョージア州で自由に公演旅行をすることも出来ず、酷い目に遭っていたようです。1979年になって漸く(手のひら返しで)ジョージア州歌になりました。歴史を調べると、まぁロクな所じゃなかったと。

そんな状況の中でずっと、ヒット曲としてこの曲を歌うことを各地でリクエストされたレイ・チャールズの気持ちを思うと切ないですね。

有名なのはコカ・コーラ社のHQがあること。日本では缶コーヒーの「ジョージア」がありますが、当然ながらジョージア州ではコーヒー豆は栽培されていません。

Georgia (U.S. state) - Wikipedia

ポイント2:Georgia on My Mind

この曲は1930年にホーギー・カーマイケル先生によって書かれた古い曲で、ジャズ/ブルースのスタンダードになっていました。当人による録音を聴くと、いなたい古いジャズの雰囲気がありますね。
Georgia On My Mind

今ではすっかりレイ・チャールズの力強い歌い方のイメージが強いですが、そこに至る30年間にも様々な歌手によって歌われていました。

Peggy Leeは1940年代に、割とあっさりした感じで歌っています。ご当地ソングの感じはこっちの方がありますね。
Georgia On My Mind

Billie Holidayはジャズバラードの雰囲気で、やはり何だか妖しいですね。「Georgia(たぶん女性)」という人物に呼び掛けているようにも聴こえます。
Georgia On My Mind

ルイ・アームストロングのも味がありますね。
Georgia On My Mind

ポイント3:ホーギー・カーマイケル

スタンダード曲「Stardust」の作曲者として有名。かつては「米国人が一番愛好する曲」として知られていました。その他にも「In the Still of the Night」「The Nearness of You」「Skylark」「I Get Along Without You Very Well」などのロマンティックなスタンダード曲を沢山1930-40年代に書いています(作曲のみ、作詞者は曲ごとに)。なので、いわゆるスイング・ジャズ(雑に言うとダンス音楽)、ジャズが一番人気の高いポピュラー音楽だった時代の人ですね。

今から90年も前に書かれた曲がいまだに定番曲として、様々なジャズコンサートやジャズセッションで日常的に演奏され、歌われているってすごいことですね。

で、この「Georgia on My Mind」はそんな中でも一番現代的というか、自然に歌える/聴ける曲だと思います。ジャズ的なアレンジを離れても活きる曲。

ポイント4:レイ・チャールズ

誰でも名前を知っている盲目のピアニスト/歌手、レイ・チャールズ。しかしよく考えてみると、どういうジャンルの人なのか、いまいちイメージが定まりません。それもそのはずで「元祖クロスオーバー」的なミュージシャンでした。ジャズ、ブルースから始まって、R&B、ゴスペル、ロックンロール、さらにはカントリーまで、ジャンルに縛られずに演奏し歌い、融合していていくことで、レイ・チャールズの音楽としか表現しようがない、唯一無二の存在になっていきました。

特にR&Bとカントリーって水と油みたいな関係だったのを「俺が好きなものを歌うんだ」と録音して、素晴らしい作品に仕上げました。

現代ではまた音楽ジャンルが細かく分類されるようになっていて、ヒットチャートも別々、(米国で)流れるラジオ局も別々、グラミー賞なども細分化されていて、ファンも別々になってしまっていて、本当にもったいないと思います。音楽には「良い音楽とクソな音楽」しかないはずですからね。

この「Georgia on My Mind」の歌唱も底流にはゴスペル的な響きがあり、ジャズ的な上品さもあり、R&B的な発声、ブルース的な切なさ、上質のポピュラー音楽としか言いようのないバランス感もあり、ジャンルなんて関係なく聴けますね。

ポイント5:ジャズセッションで歌うとすると

最近の日本ではすごく変なことになっているのですが、いわゆる「黒本(Jazz Standard Bible)」の普及と影響力/浸透力はすごくて「黒本に載っている曲だからジャズセッションでリクエストしても大丈夫」という暗黙の了解がある場合も・・・。

この曲も黒本(1)に掲載されていますが、演奏者が自発的にリクエストしているのはまだ見たことが無いです。インストだと、なんだかムード歌謡みたいにダサくなってしまうから?

インストの演奏例は

Dexter Gordon
Georgia on My Mind

David Sanborn
David Sanborn "Georgia On My Mind"

Oscar Peterson Trio
Georgia On My Mind

と様々ありますが、どうも「歌の無い歌謡曲」っぽく聴こえてしまいます(個人的意見)。

だとするとリクエストするのは「歌う人」ですね。
おそらくジャズボーカルどっぷりというよりも、普段はポップスを歌っていて、このよく知っている曲をジャズセッションで歌ってみようか、と。ポップスやノンジャンルのセッションイベントならレイ・チャールズを薄めた感じそのままで歌っても何の問題も無いですが、ジャズセッションでやるとなると色々と乗り越えなければならない課題が・・・。

ジャズセッションに集まる人達って基本的にビバップ以降~ジャスロック以前の「王道ジャズ」をやりたい人が多いので、一番敬遠されるのが「歌謡曲っぽい曲や歌唱/演奏」。どこかでブルース感やスイング感が求められるもの(この「スイング」という用語が色々なトラブルの元ですが)。リズムとして4ビートに固執しなくてもよいと思いますが、ブルース感/R&D感は出したいところですね(この「R&D」という言葉も時代によって解釈が違うのでトラブルの元)。要は「黒っぽさ」かな。

比較的最近のものですが、参考になりそうな動画を見つけたので。
Georgia On My Mind - Stringspace
(まぁ、圧倒的に歌が上手いので、誰も文句言えないですね)

で、黒本やジャズ教本に載っているこの曲の譜面は、管楽器を考慮して汎用性を持たせて「F」キーになっています。レイ・チャールズの歌のキーは「G」なので、カラオケとかで練習して何も考えずにジャズセッションで歌おうとすると「あれっ?」ということに。「G」に固執するのなら自分で譜面を用意して(インターネットにころがっています)配布するか、最悪「キーはGで(黒本から全音上げで)お願いします」と言ってその場でなんとかしてもらうか。勿論それ以外のキーで歌いたい場合には自分のキーを把握しておいて譜面(最低でも譜割りの分かるコード譜)を用意しておく、と。

レイ・チャールズの歌の抜けの良さは実はこのキー設定にもあるじゃないかと思っています。

ポイント6:ポピュラー音楽には「キー」というものがあります

カラオケの普及で、みんな歌うようになって、上手い人も増えて、とても良いことだらけなのですが、生演奏の場合には曲によって「キー(設定)」というものがあるというのを知らずに歌っている人も多いですね。で、楽器を演奏しない人が、歌を習いに行ったり、生演奏をバックに歌ったりしようとする時に最初に戸惑うのが「カラオケなら原曲から自由に(半音ずつ)上げ下げ出来るのに・・・」という点。

演奏する側も「うわぁ、そこからか・・・」と戸惑うところです。手元に譜面がある場合、「半音上げ下げ」「全音上げ下げ」くらいならその場でなんとか対応してくれる演奏者もいますが、それでもアドリブパートになるとギクシャクしてしまうことも。特にジャズではあまり使われないキーになる場合。譜面からとんでもなくかけ離れたキーを指定された場合、知らない曲の場合は進行のアナライズが追い付かずに大混乱に。演奏する人達が「俺達はカラオケじゃねえよ」と嘆くのはそういう場面です。

参考になるコラム
キー(音楽)について キー=「中心音」と「まとまりのある音のグループ」を意味する言葉

で、基本的には自分の声域に合わせてキー設定を変更してもよいのですが・・・それぞれのキーには特徴があって、作曲者が何故そのキーを選んで曲を書いたのかも大事です。そこが「気持ちよく歌えばO.K.」なカラオケとは少し違う点ですね。

ポイント7:実はバース(Verse)があります

ほとんど歌われることはありませんが、実はこの曲にもバース(前説)があり、各コーラスの前に挿入されるようです。どうもコーラス自体が短いなと思っていたら、そういうことだったんですね。

バース部分の歌詞の意味は・・・どうもあまり意味は無くて前説にもなっていない気もします。要は「このメロディを聞けば、故郷ジョージアを思い出す」と繰り返し言っているだけ。歌われなくなった理由も分かりますね。

Verse 1:
Melodies bring memories,
mem'ries of a song,
a song that sing of Georgia,
back where I belong.

Verse 2:
Melodies bring memories
That linger in my heart.
Make me think of Georgia,
Why did we ever part?

Verse 3:
Some sweet day when blossoms fall
And all the worrld's a song,
I'll go back to Georgia,
'Cause that's where I belong.

ポイント8:歌詞と発音のポイント

で、コーラス部分の歌詞はというと・・・これも実はあまり深い意味は無い気がします。「故郷の情景を思い出すよ」「この曲を歌ったり聴いたりするとジョージアを思い出すよ」と繰り返し歌っているだけ。描写されている情景も別にジョージア州に固有のものなんて皆無で、アラバマだのメンフィスに置き換えても違和感無いものばかり。

とすると、やはり「Georgia」という地名の響き、女性形の名前、がこの曲のポイントなのかもしれません。少し粘っこく(行ったことない)故郷を思い浮かべながら歌いましょう。南部訛りを真似ると鼻に掛かった発声になりますね。

As moonlight through the pines
pines」は松林です。日本語は「pineapple」の後半部分が何故か省略されて「パイナップル」のことを「パイン」と呼んでしまいますが。
松林を通して月明りが見える、なんて光景は日本でもありそうですね。

Other arms a-reach out to me
Other eyes smile tenderly
Still, in the peaceful dreams, I see
The road leads back to you
ここで「Other」と言っているのは「恋しい貴方以外の」という意味だと思います。「いつも貴方に帰っていきます」と、浮気しない宣言。

The road leads back to you
「R」音と「L」の発音の区別に注意しましょう。「The Load reads back to you」だと意味が通じなくなってしまうので。ちなみに「Load」は「積み荷」とか、転じて「重荷、心理的な苦労」という意味になり、歌詞でもよく使われます。

結論として「ご当地ソングの歌詞を書くのは難しい」ということですね。

ポイント9:様々なバージョン

懐かしい上田正樹 & 憂歌団、モノマネじゃなくて自分のモノにしていますね
Georgia On My Mind - 上田正樹 & 憂歌団

桑田佳祐、本質的なところで黒人音楽をちゃんと理解している。
Georgia On Mind / Keisuke Kuwata

Michael Bublé、余裕のあるゆったりとした歌唱
Georgia on My Mind

Willie Nelson、声がズルい
Georgia On My Mind

Etta James、自由にブルージーに歌っています。語尾にクセのある発声も個性的。
Georgia On My Mind

Ray Brownのベースによる歌メロ演奏
Georgia On My Mind

Wes Montgomeryが弾けば何でもジャズになる(ちょっとムード音楽っぽいですが)
Georgia On My Mind

The BandのRichard Manuelによる歌唱、誰よりもセツナイ感じですね。
Georgia On My Mind

India.Arie、ドラムの響きが現代的ですね
India. Arie- Georgia On My Mind (Audio)

やっぱりありました、ボサノバ版。全然違う故郷の感じ。
Georgia On My Mind

■歌詞


Georgia, Georgia
The whole day through
(The whole day through)
Just an old, sweet song
Keeps Georgia on my mind
(Georgia on my mind)

I said a-Georgia, Georgia
A song of you
(A song of you)
Comes as sweet and clear
As moonlight through the pines

Other arms a-reach out to me
Other eyes smile tenderly
Still, in the peaceful dreams, I see
The road leads back to you

I said, Georgia, oh, Georgia
No peace I find
(No peace I find)
Just an old, sweet song
Keeps Georgia on my mind
(Georgia on my mind, oh)

Other arms a-reach out to me
Other eyes smile tenderly
Still, in peaceful dreams, I see
The road leads back to you

Oh, oh, Georgia, Georgia
No peace, no peace I find
Just an old, sweet song
Keeps Georgia on my mind
(Georgia on my mind)

I said, just an old, sweet song
Keeps Georgia on my mind



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