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セッション定番曲その90:The Girl from Ipanema (Garota de Ipanema)

ボサノバの人気定番曲。歌うのも演奏するのも実は難しい曲ですが、避けては通れない1曲。元はポルトガル語歌詞ですが、ここでは英語歌詞について。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:イパネマ

イパネマはブラジル南部のリオ・デ・ジャネイロの南側の海岸の町。行ってみたいですね。1962年にこの曲が発表されて世界的に有名な地名になりましたが、当時はまだまだ素朴な海岸だったのもかもしれませんね。

ご当地ソングはやはりその土地がどんな場所なのか/だったのかをちゃんと知って歌いたいですね。

バックに見えるドイスイルマオス山が有名

イパネマ - Wikipedia

ポイント2:世界で2番目に録音数が多い曲、と言われている

1番目はFAB4の「昨日」ですが、この「イパネマの娘」も沢山カバーされています。で、実際に様々なバージョンを聴いてみると、歌入りもインストも原曲に近いアレンジのものばかりで、意外にバリエーションが無い印象です。

後述するように「つぶやくような歌い方(のあまり良くない影響)」や「ブリッジ部分の進行は意外と難しい」ことからあまりアレンジしにくいのかもしれませんね。(と思うけど「ポイント7」には様々なバージョンを載せています)

Antonio Carlos Jobim
どうも「ムード音楽」っぽいですね。


Stan Getz & Joao Gilberto, Astrud Gilberto

ポルトガル語での歌唱+英語での歌唱。


ポイント3:ボサノバ

ボサノバについての詳しい解説をするのは難しいので、ざっくりとだけ。

サンバ(など)のシンコペートするリズムに北米のジャズのコード進行の影響を重ね合わせて、1950年代にブラジルで誕生。ジャズやフランス音楽の要素を取り入れていることから分かるように、初期の中心人物は(比較的裕福な)白人ミュージシャン達でした。

で、1960年代に何か新しいものはないかと探していた北米のジャズミュージシャン達がボサノバを「発見」して、米国でも演奏し始めた、と。もともとジャズの要素を包含した音楽だったので、先祖帰りのようなかたちでジャズミュージシャン達には演奏し易かったし、米国の1960年代(前半)の明るい雰囲気にも似合っていて、人気が出ました。

一方、ブラジルでは軍事独裁政権によって「享楽的な、抵抗勢力」とみなされたボサノバ(とミュージシャン達)が弾圧に遭う事態に。多くのボサノバミュージシャンが国外に流出しました。こんな穏やかな音楽でも国策に合わないと酷い目にあってしまうんですね。

この辺は何か詳しい資料を参照してみてください。
ボサノヴァ - Wikipedia

で、ボサノバの歌い方といえば「「小さな声でつぶやくような歌い方」というイメージですが、英語圏で大ヒットしたAstrud Gilbertoの「元祖ヘタウマ」っぽい歌い方の影響も大きそうです。

ポイント4:曲の解析

かなり専門的ですが、この方のブログが詳しいです。

謎の多いブリッジ部分の進行についても解説されています。

イパネマの娘はTake the A Trainからヒントを得たと考えられる。Aセクションだけでなく、 Bセクションの「サブドミナントが4小節続いてもいいんだ」という発想はユニークなBセクションを生みだしている。

↓ これも詳しい解説動画で30分以上あります。


ポイント5:ジャズセッションにおけるボサノバ

「イパネマの娘」を4ビートで演奏することはまずありませんが、原曲がジャズの曲を「その場でボサノバにアレンジ」して演奏したり、歌ったりすることはジャズセッションの場ではよくあります。例えば「Fly Me To The Moon」などは比率的に五分五分だったりする印象。

リズムそのものが全然違うので曲をコールした人は責任をもってどの(どっちの)アレンジでいくのか決めて、他の参加者に説明しましょう。カウントを出す時点から全然フィールが違います。

そして「囁くような、つぶやくような歌い方」をする人が多くて、声量が無くて声域の狭いボーカリストが活きるジャンルでもあります。ただ「軽自動車が頑張って出した時速60キロ」と「ポルシェが余裕で出す時速60キロ」はやはり違うので、ちゃんと声量のある歌い方が出来る人が抑えて「囁くような、つぶやくような歌い方」をした時の方が魅力的ですね。
(この「ジャズセッションにおけるボサノバ」の話はあらためて書きます)

ポイント6:イパネマの娘・・・は実在した

これは有名な話でMCなどでコスられまくっていますね。

当時、ジョビン、モライスなどのボサ・ノヴァ・アーティストたちは、リオデジャネイロのイパネマ海岸近くにあったバー「ヴェローゾ」にたむろして酒を飲むことが多かった。このバーに、近所に住む少女エロイーザが、母親のタバコを買いにしばしば訪れていた。彼女は当時10代後半、170cmの長身でスタイルが良く、近所でも有名な美少女であった。ジョビンもモライスも揃って非常なプレイボーイであり、殊にモライスはその生涯に9度結婚したほどの好色家であった。女好きの彼らはエロイーザの歩く姿に目を付け、そこからインスピレーションを得て、「イパネマの娘」を作ることになった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%91%E3%83%8D%E3%83%9E%E3%81%AE%E5%A8%98

このヴィニシウス・ヂ・モライスというのがポルトガル語の作詞をした人です。

チャラいブラジル人男性と早熟なブラジル人ティーン、眩しい太陽と広い砂浜。目に浮かびますね。

ポイント7:歌詞について

ポルトガル語の歌詞を和訳で読むと、ちょっと詩的というか、少し抑えたエモーショナルな感じです。「イパネマ」と言うだけで現地の人達にはイメージが湧くので、くどくど説明する必要が無い訳です。

do sol de Ipanema
「イパネマの太陽」という箇所に地名は使われています。

それに比べて英語版の歌詞は少し俗っぽいというか、「ブラジルの海岸を歩く少女」というイメージをわざわざ説明しています。

Tall and tan and young and lovely
The girl from Ipanema goes walking
冒頭部はエロイーザの容姿や歩く姿を説明していますね。
「tall」「tan」「young」「lovely」と形容詞がこれでもかと並びます。

And when she passes
Each one she passes goes "ah"
「彼女が男たちの前を通り過ぎると、思わずため息を漏らしてしまう『アァー』と」
なんかバカな歌詞ですね。この曲を歌う時はここで「う〜ん残念」と感じてしまいます・・・

When she walks, she's like a samba
That swings so cool and sways so gentle
ここもわざわざ「サンバみたい」とか言ってしまっていて台無しですね。

But I watch her so sadly
How can I tell her I love her
Yes, I would give my heart gladly
・・・なんで「sadly」なんだろと思ってしまいますね。

But each day, when she walks to the sea
She looks straight ahead, not at me
彼女は前を向いて堂々と歩いていて、自分には気づいてくれません。
この設定はポルトガル語でも同様です。

ポルトガル語の歌詞では「彼女が周囲に振り撒く美しさ、エレガントさで、世界はより素晴らしいものになっていく」「でも、その美しさは僕だけに向けられたものじゃないだ」と、イパネマの娘が手に入らない高嶺の花だと歌っています。

英語の歌詞ではエロイーザの直接的な描写に言葉を割いてしまっているので、そういう詩的な世界観まではいかず、唐突に「彼女を見つめていても悲しくなってしまう」と。

英語版の歌詞の世界は全然別物と考えた方がいいですね。

ポイント8:色々なバージョンを聴いてみましょう

Frank Sinatra
これも大ヒットして、彼の代表曲のひとつになりました。


Amy Winehouse
ヒップホップっぽいリズムトラックですね。


Elise


John Holt

レゲエは無理があるなぁ。


Oscar Peterson Trio


Classics IV
勘違い・・・


Kenny G

台無し・・・


◼️歌詞


Tall and tan and young and lovely
The girl from Ipanema goes walking
And when she passes
Each one she passes goes "ah"

When she walks, she's like a samba
That swings so cool and sways so gentle
That when she passes
Each one she passes goes "ooh"

But I watch her so sadly
How can I tell her I love her
Yes, I would give my heart gladly
But each day, when she walks to the sea
She looks straight ahead, not at me

Tall and tan and young and lovely
The girl from Ipanema goes walking
And when she passes
I smile but she doesn't see, doesn't see

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Olha que coisa mais linda
Mais cheia de graça
É ela a menina que vem e que passa
Num doce balanço a caminho do mar
Moça do corpo dourado do sol de Ipanema
O seu balançado é mais que um poema
É a coisa mais linda que eu já vi passar

Ah, por que estou tão sozinho?
Ah, por que tudo é tão triste?
Ah, a beleza que existe
A beleza que não é só minha
E também passa sozinha

Ah, se ela soubesse
Que, quando ela passa
O mundo inteirinho se enche de graça
E fica mais lindo por causa do amor
Por causa do amor
Por causa do amor...


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