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セッション定番曲その50:Take It Easy by Eagles

軽めのロック系セッションでの定番曲。延々とアドリブを弾く曲ではありませんが、コーラスとか入ると楽しいですよね。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Take It Easyとは

例えばマラソンで走っている途中で苦しそうな様子の人に何と声を掛けてあげますか?日本語だと「頑張って!」だと思いますが、英語だと(米国人だと)そんな場面で「Take It Easy!」と言ったりもします。

何か「頑張り方」が違うのかな。日本語の「頑張れ」には「辛いけど我慢して」とか「辛抱しどころだよ」というニュアンスが強そう(勝っている人にはあまり「頑張れ」とは言わない)ですが、「Take It Easy」には「普段の実力を出そう」「その為には肩の力を抜いて、心を自由に」という感じが籠められています。ちゃんと練習して事前準備をしてきて、その時点での自分の実力を出し切るのが大事だと。本番だからといって、いきなり自己ベストの記録が出ることは少ないですよね。

「辛いこと」「我慢すること」が大好きな日本人の感覚とは少し違いますね。

「Take It Easy」は「気楽にいこう」とか「のんびりやろう」というように「Chill」と同様に翻訳されることが多いですが、使う場面によっては上記のようなニュアンスがあることも。ただダラダラするということでもないんですよね。

頑張っている人には「頑張れ」と声を掛けるよりも「応援しています」と言ってあげた方が嬉しいかも。元カープの前田選手も、ファンから「頑張ってください」と言われて「お前に言われんでも頑張っちょるわい!」と応えたとか・・・。

ポイント2:Take It Easyの意味

そう考えるとコーラスで繰り返し歌われる「Take It Easy」の意味合いも少し違って聴こえます。「気楽にいこう=肩の重荷を降ろして、少し自由に考えようよ」と。

この曲はイーグルスのデビュー曲で、日本では米国西海岸の代表的なロックバンドとして「気楽にいこう」という呑気なイメージで捉えられていますが、実はちょっと違うのかもしれません。むしろ行動を促す呼び掛けになっている、と。

それまで人気の高かった英国のロックバンドの少し湿った音や文学的な歌詞とは対照的に「米国西海岸のロックって能天気でいいよね」という受け止め方もされていましたね。実はちょっと違う・・・?


ポイント3:カントリーロック

初期のイーグルスはいわゆる「カントリーロック」のバンドと考えられていました。この曲もアコースティックギターやバンジョーの響きが印象的だし、ちょっと鼻に掛かった歌唱もあえてそこに寄せたのかもしれません。

もともと「カントリー音楽」って、ルーツのひとつはブルースなのに、そこから離れて「保守的な、田舎の、白人、中年~老人、労働者、酔っ払い」層向けの音楽としてあって、後から出てきた「自由を愛する、街の、若者、長髪、変なファッション」層向けのロックとは対立概念でもありました。1960年代半ばからThe Byrdsなどによって「ロックにカントリーの要素を組み入れられないか」という試みが為されて、徐々に「カントリー+ロック」というロックのジャンルが生まれてきました。あくまでもロック側からのアプローチですね。

初期の(というかコアな)カントリー音楽って「エレキギター?とんでもない」「ドラムとか要らん」と音的にも保守的でしたが、そこは時代の流れで変わっていき、今ではヒップホップを経たカントリーミュージシャンもいます。

「Take It Easy」がヒットした頃にはカントリーロックも受け入れられていて(特にロックファン側からは)自然に聴かれていたのだと思います。まぁ、カーペンターズとかもよく聴くとカントリーの香りのする曲もありますよね。

ポイント4:ジャクソン・ブラウン

この曲はジャクソン・ブラウンと グレン・フライの共作です。初期のイーグルスって、リンダ・ロンシュタットとかジャクソン・ブラウンとかJ.D.サウザーも緩く関わる共同体みたいな感じで、徐々にバンドとして成り立っていったので、色々な人の知恵が集約されています。

I've got seven women on my mind
Four that wanna own me, two that wanna stone me
One says she's a friend of mine

7人のガールフレンドのことを思い出している
4人は俺を独占したがるし、2人は俺を酔わせて何かしようと企む
1人は「ただの友達よ」と言う

いかにもハンサムでモテ男だったジャクソン・ブラウンらしい歌詞ですね。

この「7人」が何をあらわしているのかの深い考察はここにありました。
Take It Easy 歌詞の意味 和訳 イーグルス
こういう「(一般教養としての)聖書の影響」は我々日本人にはなかなかピンと来ないところが多くて、知らずに通り過ぎてしまっていることが音楽や映画、ドラマ、小説、絵画など様々な場面でありそうです。

ポイント5:グリン・ジョンズ

イーグルスの1枚目から3枚目(の途中)までのアルバムは、実はグリン・ジョンズのプロデュースによって英国のスタジオで録音~制作されています。米国西海岸ロックの「カラッと明るい」イメージとは実際には少し異なっていて、少し湿り気のある、どっしりとした音に仕上がっているのが印象的です。その辺りがこのバンドが他の米国西海岸ロックバンドとは少し違った立ち位置を獲得出来た要因かもしれません。

グリン・ジョンズ自身は最初は乗り気じゃなかったみたいですが、デヴィッド・ゲフィンに「どうしても頼む」と押し切られたらしい。この組合わせを実現したのはデヴィッド・ゲフィンの慧眼ですね。

イーグルスは最初から「歌える」メンバーが多く、コーラスもうまく録音されています。

グリン・ジョンズ - Wikipedia

ポイント6:Well, I'm running down the road tryin' to loosen my load

この「道を延々とドライブしている」情景って米国のロック(に限らずですが)の王道ですね。

Don't let the sound of your own wheels drive you crazy
とか
Well, I'm a standing on a corner in Winslow, Arizona
とか、車で旅をしている描写が至る所に出てきます。

今でもそうだと思いますが、1970年代前半当時、いつどこで音楽を聴くかといえば「車の中で、カーラジオかカセットテープで」というのが主流で、運転しながら聴いて心地よい音楽というのがヒットする大事な要素でした。

road」と「load」は韻を踏んでいて、発音の違いに気を付けたい箇所。「load」って歌の歌詞によく出てきますが、いまいち正体が分かりにくいですよね。「重い荷物」「(仕事の)負担、心労」みたいな訳語が充てられますが、ここでも「原罪」というような聖書/宗教的な思想の背景がありそうです。

「Winslow, Arizona」固有名詞、地名ですね。
仮にカリフォルニアから車で行ったとすると、かなり田舎ですね。ジャクソン・ブラウンの実体験みたいですが、単に語呂が良くて、いかにも田舎という地名なら何でもよかったのかも。
Winslow, Arizona - Wikipedia

ポイント7:We may lose, and we may win

It's a girl, my Lord, in a flatbed Ford, Slowin' down to take a look at me
Come on, baby, don't say maybe
I gotta know if your sweet love is gonna save me
We may lose, and we may win, Though we will never be here again
So open up, I'm climbin' in, So take it easy

残してきた7人の女の子を思い出していたはずなのに、旅先でもナンパしています。また「君の愛で僕を救ってくれよ」と。

「We may lose, and we may win」って語呂も調子もいいですね。「俺は責任取らないけどね」と。どっちみちにここにはもう戻らないし。
ここでの「So take it easy」はまさに「あんまり考えないで、気楽に付き合おうよ、いいじゃん」という感じの呼び掛けになっていますね。

ポイント8:Witchy Woman(魔女のささやき)

実は私が最初にイーグルスの曲を聴いたのはこっちが先でした。当時ラジオで流れていて、それなりにヒットしたはず。これだけ聴くと米国のバンドとは思えませんよね。ドン・ヘンリーの声も相まって英国のロックバンドの暗く湿った曲に聴こえます。コーラスも不気味な感じを醸し出していますね。

この時点でも既に「リードギターが少し弱いかな」という感じはしますが。


ポイント9:初期のイーグルス

メンバー間のパワーバランスが崩れる前の初期のイーグルスは民主的なバンドだったと思います。それなりにキャリアのある連中が集まって「さぁ、一旗揚げよう」という時期。いい時代ですよね。

既にレコーディング経験もあったバーニー・レドンが様々な楽器を担当してバンドの核となり、まだボーカリストとして経験の浅かったドン・ヘンリーは徐々に自信を付けていき、ポコにも在籍していたランディ・マイズナーはようやく居場所を見つけ、グレン・フライはフロントマンとしての存在感を発揮し始めていた、と。

デビュー曲の「Take It Easy」がそれなりにヒットして喜んだはずですが、アルバムとしての評価はイマイチ。2枚目のアルバムは傑作ですが、思ったよりは売れず・・・。で「売れる」為にはどうするかと模索していくうちに徐々にバンド内のパワーバランスが崩れていって、結果的には大ヒット曲/アルバムを持つ超人気バンドにのし上がっていった訳ですが、失ったものも大きかったと思います。

振り返って「Take It Easy」を聴いて、演奏して、そんなことも思いながら歌うのもアリかもしれません。原曲からかけ離れたアレンジで演奏されているのを聴いたことがないので、セッション曲として面白みは無いのかもしれませんが、コーラスを頑張りましょう。

■歌詞


Well, I'm running down the road tryin' to loosen my load
I've got seven women on my mind
Four that wanna own me, two that wanna stone me
One says she's a friend of mine

Take It easy, take it easy
Don't let the sound of your own wheels drive you crazy
Lighten up while you still can
Don't even try to understand
Just find a place to make your stand and take it easy

Well, I'm a standing on a corner in Winslow, Arizona
And such a fine sight to see
It's a girl, my Lord, in a flatbed Ford
Slowin' down to take a look at me

Come on, baby, don't say maybe
I gotta know if your sweet love is gonna save me
We may lose, and we may win
Though we will never be here again
So open up, I'm climbin' in
So take it easy

Well, I'm running down the road trying to loosen my load
Got a world of trouble on my mind
Lookin' for a lover who won't blow my cover
She's so hard to find

Take it easy, take it easy
Don't let the sound of your own wheels make you crazy
Come on baby, don't say maybe
I gotta know if your sweet love is gonna save me

(Oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh
Oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh
Oh-oh-oh, oh-oh-oh)
Oh, we got it easy
We oughta take it easy



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