【文学紹介】明け方の茶店と青瓷の花 楊万里:道旁店
1:はじめに
こんにちは。先日友人達と景徳鎮に旅行に行ってきました。
陶器で有名な街です。
朝から市場がずらり並び、手作りの茶器やら花瓶やらが売られていました。
我々が想像するような、かしこまった「茶器」や「花瓶」から
デザイン性の高い陶器まで数々販売されてあり、新鮮な印象を受けました。
(陶器の市場なのに、なぜか竹内まりあの「プラスティックラブ」が流れていたのも、絶妙に印象的でした)
僕も手の届く範囲の値段で青磁の花瓶を一つ買いました。
青磁の花瓶を買ったら夏に百日紅の花を挿したいと長らく思っていたからです。
季節はまだ春ですが、今回はそのきっかけとなった詩を紹介します。
2:楊万里の生きた時代について
まずは恒例の作者紹介と時代背景の解説です。
楊万里は南宋時代の政治家・学者・文学者です。
以前ご紹介した蘇軾の時代から100年ほど後の人ですが、蘇軾は北宋時代の人。
蘇軾の時代から、北宋は朝廷での政治争いや腐敗が徐々に激しさを増していき、同時に北方で起こった女親族の金王朝からも外交面で圧迫されるようになっていきます。
元々北宋は金とは別に契丹族の王朝である遼と領土(燕雲十六州)をめぐる問題や、毎年莫大な財貨を贈る条約などの問題もあり、最終的には金と結託して遼を滅ぼすことを目指します。
金の軍事力のおかげで見事遼を滅ぼすことができたのですが、事前の約束を北宋側が反故にし、また今度は金を牽制するために遼の残党と好意にするなどの対応に出たため、金側からの攻撃を招きます。
1126年、金軍は北宋の都開封に入城、時の皇帝欽宗と太上皇の徽宗、並びに政府の高官や皇后妃女官らを拉致する事件が起こります(靖康の変)。
これにより北宋は滅亡、残った皇族や高官らが臨安(今の杭州)に逃れて即位し成立したのが南宋になります。
1279年に元の侵略で滅亡するまで、南宋では北宋を継続する形で社会・文化が発達します。
文化面では、活字印刷の発明と発展による出版業の隆盛や、印刷物の大量普及に伴う文学や哲学の普及発展など大きな進歩が見られました。(朱子学で有名な朱熹もこの時代の人です)
その他、北宋の後期ごろからは古典詩の指南書や民間の創作グループなども出現するようになり、印刷事業の拡大に支えられる形で文芸活動も盛んになっていきます。
また三大発明(火薬・羅針盤・活字印刷)に代表されるように、北宋・南宋では技術全般が目覚ましい発展を遂げました。窯の技術の進歩と石炭の活用が開始されたことで、唐代よりも高温で焼き物を作ることが可能になり、磁器の生産が活発に行われるようになります。北宋では白磁が、南宋では青磁がよく作られたようです。
社会が大きく進歩した一方で、北方民族に侵略された亡命政権としての性格はずっと残り続けます。
彼らにとって開封や洛陽など北に位置する都市は「本来自分たちの土地」であり、「国土の奪回」は常に議論の的となりました。後期にはモンゴル王朝の成立と侵攻も加わり、経済的な繁栄と国際的な危機の間で社会が揺れ動くこととなります。
3:楊万里について
楊万里は江西省吉水の出身、1154年に進士となり、知県、国子博士、知州などの職を務めたのち、2代目孝宗の時代に侍講(君主に仕え学問を講義する役職)に抜擢されます。
元々学問で評判のあった人物でしたが、人物眼にも優れており、この時朱熹をはじめ60名の人物を時の宰相に推薦して登用させていたりもしています。
このような反面、節を曲げず直言を憚らない剛直な性格でもあり、それが災いして度々左遷や免職などの憂き目に遭っていたりもしています。また異民族に侵略された華北の回復を強く望んでおり、自身の献策を朝廷に上奏するなども行っています。
詩人としての評価も当時から高く、同じく南宋の文学を代表する陸游や范成大とも並び称される人物です。
彼の詩の特徴として、日常の些細な出来事を細かく記すことが挙げられます。政治的な志をいう詩がないわけではないのですが、下記のように、日常の風景をサラッとスケッチしたような詩に彼の真骨頂があると評されることが多いです。
上の詩も、梅の実を齧りながらカーテン越しに芭蕉の葉の緑色が映る様子を眺めたり、のんびりとうたた寝をしながら子どもたちが柳絮を追いかけている様を眺めていたりと、長閑な風景を詠っています。
こうした日記的な文学、閑適の文学は唐の杜甫や白居易の頃から本格化するのですが、宋代に入るとその数も格段に増えていきます。
印刷業の発展に伴い作詩の指南書が普及するようになったことも影響していると考えられますが、宋代の詩が概ね杜甫をお手本としたことなども影響しているかもしれません。
4:次回に続く
今回も例の如く記事を前編後編に分けて紹介できればと思います。
後編も懲りずにご覧いただけますと幸いです!
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