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【文学紹介】除夜と込み上げる興奮と 蘇軾:守歳
1:はじめに
こんにちは。昨日は多くの方が仕事納めだったようで
いよいよ今年も残すところ後わずかになりました。
中国のカレンダーでは元旦は祝日ではあるものの
年越しの本番は2月の春節、12月はただの月末という認識の方も多いです。
そのため日本ほど年末感は感じないのですが
やはり12月31日は少し奮発したお酒とご馳走を食べながら
紅白を見てゆく年くる年を見て、、、
というのが恋しくなります。
今回は年末にちなんで、大晦日の日をテーマにした
漢詩を紹介します。
新しい年を迎える時の興奮と
その後ふと感じる過ぎ去った年の静けさ、
そんな感情は昔も今も変わらないと感じさせてくれる詩です。
子供の頃に多くの方が感じたような
年末特有の情緒を感じていただければ嬉しいです。
![](https://assets.st-note.com/img/1703780998083-l4KUI7S9hs.jpg?width=800)
2:蘇軾について
まずは恒例の作者紹介と時代背景の解説です。
今回の作者である蘇軾は北宋の政治家であり文学者です。
彼は李白や杜甫と共に、中国文学史の中でもかなりのビックネームな存在です。
李白や杜甫が唐の時代を代表する詩人だったのに対し、
蘇軾は宋を代表する詩人です。
![](https://assets.st-note.com/img/1703781111669-GsWe2oZ260.png)
彼自身は詩だけではなく画家としても
書家としても有名な人物であり、
また政治家として浮き沈みも数多く経験した人物でした。
今では文学や芸術と政治は相容れない関係にあるものと
認識されることが多いですが、
この時代は儒学や数々の教養を身につけたエリート層が
政治家として天下のために力を尽くす、とのが理想とされていました。
したがって素晴らしい政治家と一流の文学者は矛盾しない存在なのです。
宋代は有名な官吏登用試験「科挙」を通過した官僚たちが
政治を担う世界です。
科挙の自体は唐代の頃にはすでに存在していましたが、
唐代はまだ貴族政治の色が残っている時代であり
科挙官僚たち主導の政治が実現・完成するのは宋代からになります。
科挙を通過し中華の教養を体現する彼らは政治家としてだけでなく
詩文書画や音楽などにも精通しており、
これらを通じて自身の人間性や哲学を表現するべきと、
言う価値観が浸透していきます。
(彼らのような科挙官僚のエリートたちを士大夫と呼びます。)
![](https://assets.st-note.com/img/1703781374832-uouo0ryLlN.png)
我々が「文化人」「教養人」と言う言葉から想起するようなイメージは
宋代の頃の価値観に端を発していると言うこともできます。
そして蘇軾は詩文だけでなく書や絵画でも一目を置かれる存在であり
また詞についても改革を試みるなど、多方面で非常にマルチな才能を発揮した人物です。
![](https://assets.st-note.com/img/1703781170508-rMo3aDnR9c.png)
彼もまた宋代士大夫の価値観を体現した人物であったといえます。
文学方面以外でも彼の名前は残っています。
例えば浙江省杭州にある有名な湖、
西湖にある人口の堤防は彼が作り「蘇堤(そてい)」
と呼ばれていたり、
彼の考案したとされる豚肉を醤油ベースのタレで煮込んだ料理を
彼の号である東坡居士にちなんで「東坡肉(トンポーロウ)」
と言ったりなど
いろんなところで歴史に名前が残っております。
3:宋という時代と詩の特徴
宋と言う時代は唐と比べて地味な印象の強い時代ですが
唐という偉大な王朝を乗り越えようとする
エネルギーに満ちた時代であったといえます。
先ほどの科挙に代表される制度の拡充だけでなく、
儒教が中華の正統的な教えとされその教義が整えられ、
科挙に通過した士大夫が天下を繁栄に導いていくという
その後清代にまで渡って続く制度が整えられた時代でもあります。
また火薬・羅針盤・活字印刷という発明がなされたのも宋代であり
科学技術も唐代から大いに発展した時代でした。
![](https://assets.st-note.com/img/1703781681105-6COoe5kMGR.jpg?width=800)
そんな変化の時代の中、
詩においても唐詩の相剋が求められるようになります。
唐という時代に全盛を迎えた詩という文化、
李白、杜甫、王維に代表される綺羅星の如く輩出された詩人たち。
偉大であった唐代の文学と精神を
宋は文学においてどう乗り越えていくのか?
新しい時代の文学は如何にあるべきなのか?
宋代において開拓された詩の特徴は
「悲しみの止揚」と「理性の発揮」でした。
細かな説明は割愛しますが、
「徒に逆境を悲しむことをやめて、理性を持って乗り越えよう」
という理性による精神の表現を、宋詩は目指しました。
「酒を飲み過ぎゆく時の無常を悲しむ」のが唐詩であれば
「茶を嗜み人生をじっくりと見つめる」のが宋詩であると言えます。
悪く言えば少々地味で理屈っぽい、しかし良く言えば多面的に深く物事を考えている、そんな感じです。
蘇軾の詩もこの傾向を有しております。
哲学っぽいものあり、少々内容を捻ったようなものあり、色々あるのですが
とてもユーモアに富んでいる詩が多く、彼の知性が感じられるものが多いです。
ユーモアを通じた知性の表出、明るく開かれた知性は彼の詩を読む上でのキーワードかもしれません。
4:次回に続く
こちらも例の如く、前置きが相当長くなってしまいました。
今回も記事を前編後編に分けて紹介できればと思いますので、
後編も懲りずにご覧いただけますと幸いです!
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