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【校閲便り】 vol.0 お便りの取り扱い説明書



0号では、お便りをお読みいただく上で前提となる概念をご説明させてください。
言語の「本質」と「言葉に対する意識」についてです。(これが念頭にないと、学びが浅くなります)

ここでいう言語の本質とは、「ルールが先に確立され、その下に発生したものではない」ということです。
言語は、人々がお互いに声を使ってコミュニケーションをとるなかで、自然発生的に育ってきたものなのです。まるで、宇宙の中の塵が集まって星や惑星となるように。
…文法は? ルールでしょう? という声が聞こえてきそうですね。
皆さんが義務教育期間に学んだ「体系文法(学校文法)」というものは、現在(といっても半世紀以上前)の日本語の使用例を集め、グループ分けをして(体系化)、もっともらしいということで当時の文部省に採用された「一人の国語学者の説」にすぎないんです。(橋本文法といわれています)

私は大学で国語学を専攻して、大きなショックを受けました。
「正解はないのか」
今まで絶対的な存在だった「学校文法」が、足下から揺らいだのです。
当然、国語学者の数だけ、文法論も存在します。

私の大きな学びとなったのは、ほぼ全ての国語学者に「言語は常に変化するものである(生き物である)」という認識があるのを知ったことでした。
その分野のプロであればあるほど、変化に寛容なのです。
「日本語の乱れ」と言う人は、果たしてどこを基準として「乱れ」と言っているのか。発生してから今日まで、ずっと「乱れっぱなし」なのに。

……私のスタンスも、同じです。生き物であるからこそ、面白いと感じます。
ただ、はっきり言えるのは、いわゆる「乱れ」から、それが「主流」になるものと、「流行(はやり)」で終わるものがあるということです。

校閲便りでは、現在「主流」とされている考え方をひとまず「正解」としてお伝えしていくことをご承知おきください。

次に、
言葉には優しさをもって接しましょうというお話をします。
それはどういうことかというと、「言葉に対する理解を深め、丁寧に取り扱ってください」ということです。
ここで私が言いたいのは、「単に語彙を増やす」ということや、「単に推敲を重ねる」ということではありません。

具体的には

 ・目の前にある文章が何を伝えたいのか、読む側(聞く側)はどう受け取るか (想像)
 ・言葉一つひとつが、本来の力(役割)を発揮できているか (知識)
 ・(自分が誰かの文章をチェックをするような場合には)読む環境は整っているか (心身の状態)
 ・わからない言葉や曖昧な言葉(意味や読み方、使い方)をそのままにしていないか (調べるというひと手間)

というような感じです。

優しさをもって書いた文章は、それが1度目でもベストコンディションでしょうし、優しさをもってチェックすれば、1度目でも漏れなく間違いが探せると私は思います。
チャンスが沢山あると思えば思うほど優しさは自然と失われ、完成度は落ちます。(回し読みの落とし穴はこれです)

いちど手元から離れると、言葉は一人歩きを始めます。どこに出しても恥ずかしくない状態まで育てて、送り出してあげたいですよね。そのためには皆さんの「優しさ」が必要なんです。


毎号のお便りのテーマは、「じゃあ、こういう場合はどうなるの?」「他にはどんな例があるの?」と、問いを増やすものが沢山あると思います。
ぜひ、自分の身体を動かして「調べる」という行為をしてみてください。その全てが、皆さんの糧にきっとなるはずです。

この校閲便りが、みなさんの Good Life の一助となりますように。


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