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【校閲ダヨリ】 vol.3 敷居が高い


みなさまお疲れさまです。
最近蒸し暑くなってきて、食欲が失せていませんか? この時季はさっぱりしたもの、そうめんは茹でる間に自分も茹だっちゃうから外にお寿司なんか食べに行きたいなあ……なんて考えては、財布の中身とお給料日までの日数とを計算してため息をつき、親の仇とばかりにそうめんを茹でて生きています。

さてさて、そんな私ですが、家の近所にいつか絶対に入ってやろうと思っているお寿司屋さんがありまして。見るからに高そうなお店の入口は竹の格子戸になっていて、外から覗くとカウンターにいかにも職人気質な大将がいて、あの下駄みたいな木の上に握ったお寿司をひとつひとつ出していくわけです。お寿司が回らないなんて! 2貫1セットじゃないなんて! でも、お店の外にお値段が書かれていないから予算が立てられないんですよね。お客さんを見ても余裕のありそうな紳士淑女なので、私のようなひよっこにはとてもじゃないけど敷居が高いお店なのです。

はい! 今、ふふん、モノを知らぬ小娘が。「敷居が高い」の使い方も知らんとは! と思った方、まんまと罠にかかりましたね。今回は、ちょっと意地悪な慣用句の意味の変化についてです。

もともと敷居が高いとは、

不義理または面目ないことなどがあって、その人の家に行きにくい。敷居がまたげない。(広辞苑 第六版より)

という意味なので、高級すぎて行きにくい、みたいなのは間違いとされてきたわけです。文部科学省の「国語に関する世論調査」では本来の意味と違う使われ方をしているとしてよく挙げられてきた言葉です。
なので、これまで私たち校閲者は、本来の意味でない敷居の高さには厳しく赤で指摘をいれていました。ところが2018年、広辞苑の第七版の改訂で

高級だったり格が高かったり思えて、その家・店に入りにくい。

という語釈が加わったのです。つまり、誤用とされてきたものが広辞苑という根拠を得てしまいました。

個人的には、既に広く一般的に高級、格式高いという意味で使われているので使ってもいいと思うのですが、もうしばらく、他の辞書が追随して完全に誤用ではないという認識が浸透するまでは、誤用の扱いでいたほうがいいのかなあ……なんて悩みながらエンピツを入れさせていただいています。


言葉の意味はちょっと目を離すとすぐに移り変わっていってしまうので、日々勉強をしていきましょう、というお話でした。

文責:Y(2019/7/17)


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