【校閲ダヨリ 】 vol. 34 御御御御御
みなさまおつかれさまです。
さて、今回は「御」についてです。
日本語を母語とする我々は、接頭語の御を「ご」と読むか「お」と読むか悩むことはせず、感覚的に導き出すことができますが、外国語として日本語を学ぶ方々にとってはこれがなかなかハードルの高いことのようです。
(ちなみに、国語学の世界では「母国語」という表現が用いられることは現在ほとんどありません。母国語とすると、国籍が日本以外の、日本語をメインに話す人が除外されてしまいますし、民族問題の火種にもなりかねないためだと私は解釈しています。)
果たして「ご」「お」それぞれに法則性はあるのでしょうか。
結論から申しますと、法則性はあります。
さらっと解説することももちろんできるのですが、今回はこの事例を通して、みなさんに法則性を見つけるための思考の流れを説明します。
……ググったり、辞書を引けば済む話なのでは?
確かにおっしゃる通りですが、その方法はいわば瞬間移動だと私は考えています。
決して否定するわけではありませんし、私も仕事中は大いに利用する方法でありますが、これからご紹介する方法を知っていると、結構いろいろな場面で応用できますし、ブレインストーミングの際にも使える考え方ですので、みなさまのお役に立てるかもしれません。
それでは、ゼロベースから「ご」「お」の使い分けの法則性を見出す旅へ出かけましょう。
1. 用例を、できる限りたくさん挙げる。
国語学は、全体として統計的に言語を分析する学問ですので、「世間で実際にどんな使われ方をしているか調べる」ことが、8割を占めると思われます。
実際は、コーパスを使ったり、アンケートをとったり、取材をしたりして用例を収集していく(柳田國男のすごいところは地道な実地調査です)のですが、今回はそれの簡易版です。ここでは、「御(ご)~」「御(お)~」の例を思い出せるだけ挙げてみましょう。
2. 項目内で共通点を探す。
このセクションが、1割5分といったところです。「分類」「分析」という言葉を使えば格好いいのかもしれませんが、要は、「似通っているところ」「違っているところ」を探すわけです。
普段慣れ親しんでいる言葉ですので、比較的容易に共通点が見つかるのではないでしょうか。
さて、いかがでしょうか。
「ご」と読むか「お」と読むかは続く語の性質によって決まるようです。
ただし、ここまでで9割5分ということをお忘れにならないようにしてください。
ここで理論を閉じてしまうと、「詰めが甘い」ということになってしまいますので、次のことを必ず意識してください。
3. 例外を探す。
言語は特に、ですが、どんなことにも例外はあります。
言葉はそもそもルールづけが難しいので、この残り5分の工程が、自身の論に説得力を持たせられるか否かの分岐点になると私は考えます。
ここでは、「御(ご)~←が漢語以外の例」、「御(お)~が和語以外の例」を探していきます。
この例を鑑みて、推察をまとめます。大切なのは「例外はあるが、大方の法則性は見出せる」というところです。
最後に、答え合わせを含め、辞書の記述を見てみましょう。
実際には、さらに解説が長く続きます。
この方法の良い点は、辞書に記載されている内容の理解がより深まる点にあると私は思います。
ここでいくと、「「お(おん・おおん)」は和語であるから「お父さん」「お早く」のように和語に付き、「ご(ぎょ)」は「御」の漢字音からできた接頭語であるから「ご父君」「ご無沙汰」のように漢語(漢字音語)に付く」というところは推察からは導き出せなかった新事実です。
「あ! なるほどそういうことなのか!」という気づきはいつであっても嬉しいものですよね。辞書ごとに特性も違うので(vol.4 参照)、時間に余裕があれば複数の辞書に当たるとなおよいと思われます。
さて、いかがでしたでしょうか。
辞書やネットに落ちていない事柄にアタックする場合、信じられるのは数というデータになってきます。先行研究のない、新しいことを論じようとする場合はなおさら大切でしょう。
本記事がみなさまのブレイクスルーの足がかりになれば幸いです。
それでは、また次回
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