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サービス業にも「お客さまと繋がらない権利」がほしいという話【全文無料】

先日、朝のテレビで「繋がらない権利」というワードを目にしました。

繋がらない権利とは、労働者が勤務時間外には仕事のメールや電話などへの対応を拒否できる権利のことウィキペディアより)。

フランスでは2017年に世界に先駆けて法制化もされています。

この流れは今、世界で広がりつつあるようです。


このことを知ったときにふと思いました。

私たちのようなお客さま商売をしている者たちにも、この「繋がらない権利」があってもいいんじゃないだろうか。

というのも、お客さまとのコミュニケーションを大事にするお店ではとくにそうなんですが、仕事終わりに食事に誘われたり、休日にラインが来たりというのがけっこう日常茶飯事なんです。

店とお客さまの垣根が「良くない意味で」取り払われてしまっている。

人によるとは思いますが、こうした状況に疲弊している人は多いんじゃないかと思います。


仮にこの「繋がらない権利」が私たちのような者にも認められれば、遠すぎず近すぎない、程よい距離感をお客さまと保つことができる。

そのほうが、結果的に長く良いお付き合いができるんじゃないかなと思うんですよね。



お客さまは友だちじゃない

前述のように、お客さま商売をしていると、仲良くなった方から食事や遊びのお誘いを受けることがままあります。

とくに飲食のような、滞在時間が長くてお客さまがお酒を飲んでいるような状況だと、なおさらそういう話になりやすいです。

ただ...詳しいデータがあるわけではないので確かじゃないんですが、おそらくお客さまからプライベートのお誘いを受けて心から嬉しい!と思える人って、全体の1割ぐらいしかいないんじゃないかなと思うんですよね。


私は「嬉しくない9割」のうちのひとり。

とはいえ別にお客さまのことが嫌いだとか、喋るのがめんどくさいとかではありません。

しいていうなら、飲食ということでただでさえ仕事時間が長いですし、夜遅く終わることも多いですし、家族がいたり、自分の趣味を楽しみたかったりと、なにかと忙しい。

それに仲良くなるとお互いにアラも見えてきます。

ほんとのプライベートな関係なら、嫌になったら離れるだけですが、お客さまとして長いお付き合いをすることを考えると、嫌な部分は見たくないし、見られたくもない。

そう、お客さま自身はプライベートな付き合いのつもりでも、こちらの感覚としては仕事なのです。


どれだけお客さまが「今はプライベートなんだからリラックスしてよ。気を使わなくていいよ」と言ってくださっても、そういうわけにはいきません。

料理取り分けなきゃとか、お酒がなくなったから注文しなきゃとか、話の内容にもちょっと気を遣います。

まさか怒らせてしまて「もうお宅の店には2度と行かない!」なんてことになったら、何しにこの場に来たんだろって話ですから。


林伸次さんの著書「大人の条件 さまよえるオトナたちへ」の中でも、お客さまからいただくお土産がそんなに嬉しくない理由としてこんなふうに書かれています。

「お返しなんていいですよ」というお気持ちもわかりますが、店側としてはお客様とは友達ではなくて「ビジネスの関係」なので、「貸し借り」はどうしても避けたいんです。

おっしゃる通り、本当によほどのことがない限り、お客さまはどこまでいっても「お客さま」なのです。



ときにお客さまからの強いプレッシャーもある

あとこれ私はよく理解できないんですけど、店の店主やスタッフと親しくすることが、自慢になる人がいるみたいです。

「俺あそこのオーナーとは釣り仲間だからさ」なんて嬉々としておっしゃる方、けっこういます。


で、そうした心理を利用してお客さまを囲おうとするオーナーもまたいるんです。

定期的にゴルフコンペをやったり、フットサルをやったり。ホステスをしているときはこれが当たり前でした。

だから土日が定休日でも半分ぐらいはお客さまとのお付き合いで埋まってましたし、ゴルフの打ちっぱなしの練習もしました。

まぁお給料がとてもいいので仕方ないかなとは思います。


飲食をやっている人の中にも、ホステスのように半分仕事だと思って、割り切って付き合いをする人もいれば、本当に根っからの人好きっていう人も稀にいます。

もちろんどんなやり方で常連さんを繋ぎ止めるかはそれぞれの自由なんですけど、ただちょっと問題もあったりして。


もしもお客さまが、仕事だと割り切ってる人や、根っからの人好きなオーナーとのお付き合いに慣れてしまっていると、そうじゃない大多数のオーナーに対して「付き合いが悪いな」と言い始めるんですよね。

そこまで直接的じゃなくても「〇〇(他店)に行くと、必ず終わってから大将と一杯行きましょってなるんだよ」と遠回しに圧がかかるんです。


私たちのような「プライベートまで繋がるのは遠慮したい組」は、そこになんともいえないプレッシャーを感じます。一種の立場を利用したパワハラだとさえ思う。

会社の部下に「休みの日でも電話に出ろ、メールを返せ」って言うのと同じだよなぁと。

あぁ、行かなきゃまずいかなぁ。もうきてくれなくなっちゃうかなぁって心配するの、非常に心が疲れます。




もっと広まってほしい「繋がりたくない」という価値観

で、結果的に私たち夫婦の場合ほとんどのお誘いは断るんですけど、やっぱりいい顔はされないです。

友だちだと思ってたのに一気にシャッターを下ろされたような気持ちにさせてしまうのでしょうか。だとしたら本当に申し訳ないなと思います。

この店商売が下手だなと思う人もいそうです。下手で構わないです。

いずれにしろこのやりとり、誰も幸せじゃないですよね。


そんなわけで冒頭の「繋がらない権利」という言葉、飲食を含め、サービス業界隈でもっと広まってほしいと思っています。

仮に多くの人がこの言葉について知っていれば、誘う前のワンクッションになるはずです。

もしかしたら繋がりたくない人かもしれないなーって、相手の気持ちを想像しながら声を掛けられます。


あるいはこちら側が丁重にお断りした際に、あなたのことが嫌いだとかしゃべりたくないという意味ではない、ただただ自分の時間を大事にしたいだけなんだってことを、少しは理解してもらえそうです。

そうすれば、付き合いが悪いと憤慨したり、行きたくないお誘いに付き合わされて疲弊したり、ドギマギしながら断ったりと、お互いが不幸になるような事態がもっと避けられると思うんですよね。



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