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三島由紀夫論2.0

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2021年11月の記事一覧

芥川龍之介の論理・太宰治の意地・三島由紀夫の蟹

芥川龍之介の論理・太宰治の意地・三島由紀夫の蟹

人の悪い芥川「お父さんは相当な皮肉やさんだったけど、私や使用人にも荒いことばで何か言ったり怒ったことはない人でした」「お父さんは普段怒らないし、やさしい人だったけれど、皮肉やさんでしたね」(芥川瑠璃子『双影 芥川龍之介と夫比呂志』)これは文の言葉である。瑠璃子は「ちょっと人の悪いところもある龍之介」と書いている。

 私は既に芥川龍之介作品の核は「逆説」であると書いた。この『実感』では「死骸の幽霊

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三島の死と芥川の死

三島の死と芥川の死

 三島由紀夫の死について深沢七郎は大人の小説が書けない偽者の死だと書いている。そこにはあくまでも政治的に見せかけた三島の死を個人的な死だと切り捨てる視点がある。「シャンデリアの下でステーキを食って、なんでニホンが好きとか言うのよ」という指摘は鋭い。吉村真理ともペペロンチーノを食べていた。村上春樹ではないがどうも三島由紀夫には和食のイメージがない。

 そのことはきわめて個人的な死だとしか言われるこ

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漱石・芥川・太宰・三島のらっきょう

漱石・芥川・太宰・三島のらっきょう

 鞄に入る入らない問題、そして副知事室に4500万円トイレ設置で有名な作家猪瀬直樹は三島由紀夫について『ペルソナ 三島由紀夫伝』でこう述べている。

 らっきょう頭から生まれる絢爛たる文学といえば、やはり芥川龍之介のことを思い出さざるを得ない。芥川龍之介の小中学生時代のあだ名はやはり頭の形から「らっきょう」だった。このらっきょう頭、太宰では顔になり、精神になる。

 このらっきょう顔について、夏目

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三島由紀夫・貴族文藝の正統な傳承者

三島由紀夫・貴族文藝の正統な傳承者

 どういふ因縁か知らないが、ぼくは三島由紀夫の作品を、戰爭中から知つてゐる。『花ざかりの森』といふ本がある。彼のごく初期の作品をあつめたものだ。ぼくは偶然それを虎の門へんの小つちやな本屋で見かけて、燈火管制の黒幕のかげで讀んだ。空襲がはじまつて、黄色つぽい硝煙が東京の街路にただよひだしてゐた。終戰の前年の、たしかに暮れ近いころである。この本には短篇小説が五つ載つてゐる。短篇といつても、百ページ近い

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三島由紀夫の死、あるいはサバイバーズ・ギルトのある風景

三島由紀夫の死、あるいはサバイバーズ・ギルトのある風景

 福田恆存の『人間とは何か』の冒頭では文芸評論家であることの矜持が語られる。曰く、小説家にもなれず学者になるほど豆でもないものが文芸評論家になるのだそうである。その福田恆存は本書において芥川龍之介の自殺を自然なことだと見做す。私はそうした作家のプレゼンスとアクティビティと作品をごっちゃにしたようなものが文芸批評であるとは思わないが、芥川龍之介が自然主義的な既成の「小説」というものに徹底的に抗しなが

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