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-美しき恐怖に酔う-映画『白いドレスの女』【映画音楽紹介⑩𝓶𝓲𝓷𝓲】

映画『白いドレスの女』から「思わせぶり」"I'm Weak"

 本稿ではローレンス・カスダンによるフィルム・ノワール『白いドレスの女』(1981)のサントラから“I’m Weak”を紹介したい。こちらは私の敬愛する作曲家ジョン・バリーによる映画史に残るジャズの一曲である。フィルム・ノワールというサスペンス且つ性的な表現の多い映画において、官能的な場面を音楽で如何に表現するか非常に興味深く感じている。今回は本曲の音楽的特徴を分析し、映画においてバリーの果たした功績を確認したい。

 本曲“I’m Weak”は主人公が窓を叩き割って部屋に侵入し女性と愛を交わす作中屈指の名場面に添えられた音楽である。クセになる格好良さに酔いしれることのできるカクテルのような一曲だ。本曲は前半の「欲望のモチーフ」と後半の「マティのテーマ」から構成されている。前半の「欲望のモチーフ」では、ゆっくり繰り返されるソ、ラ♭、ミ♭の半音から5度の上行による3音が非常に印象的であり、暗く物悲しい和音の中で奏でられる暖かいアルトサックスとシンセによる煌びやかなベルの音色によるメロディからは、映画内の風鈴の音とともに断続的に湧き上がる肉欲を感じる。前半から後半への移り変わりでは、まさに主人公が部屋に突入する場面の精神状態を表しており、爆発寸前とも感じ取れるミとファの半音による不協和音のトレモロが弦楽により奏でられる。メインテーマでもある「マティのテーマ」に移ると途端に耳に入ってくるのは、アルトサックスによるソウルのように熱く妖艶なメロディ。同時に、ベルとピアノの調べはどこか不気味な色気を醸している。ヘ短調という重苦しい雰囲気の中でも、マイナーコードによるふわっとした浮遊感のある3度上行進行とメロディにおいてコード内の6度、7度、9度の音を用いた複雑な響きが、洗練されたリッチなジャズのサウンドを創り上げている。また、Bメロでは平行調の変イ長調による力強い展開にも耳を離せない。その情熱的な様は蒸し暑苦しい真夜中に湧き上がる男女の欲望と、エレガントな洗練さは女性マティの外観をそのままに、物悲しく不気味なほど艶やかなベルによる8分音符の刻みは背徳感を、映画の世界観を見事に表現しきった作品だと感じる。

 本作におけるジョン・バリーのスコアは以降のネオ・ノワール作品の音楽に多大な影響を残し、後の『氷の微笑』(1992)におけるジェリー・ゴールドスミスによる音楽からも本作の特徴を聴いてとることができる。今後も映画におけるサントラの音楽的特徴と映画にもたらした功績を分析し、映画音楽の素晴らしさを共有してきたいと思う。

読んで下さりありがとうございました。気が向きましたらコメント欄にてお気軽に感想もどうぞ♪

【参考文献】
・映画『白いドレスの女』ローレンス・カスダン監督 1981年
・伊福部昭(2008)『完本 管弦楽法』音楽之友社
・Jon Burlingame, Geoff Leonard, Pete Walker, Music by John Barry: A Chronology of Selected Works (2022), Redcliffe Press Ltd, p.370-p.379

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