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9. 大学院進学私論(文系分野)

 今回もクリックいただきありがとうございます。
 私は文系分野(社会科学)の修士課程を修了しています。大学院に進学した20年余り前のことを振り返ります。


1.進学の動機

 私は学部3年当初から大学院進学を考えていました。
 その理由は、自分の専攻でこれを勉強した!という手応えと、人とは違う目に見える成果が欲しかったからです。

 学部の勉強は講義科目を選択しますが、学ぶテーマは受動的な選択となってしまう点で学びのテーマの一貫性の弱さを感じていたことから、大学に進学したという自信を得られないのではないかと考えていました。

 大学院進学の是非について恩師に相談したところ、「進学する金があるかどうかが唯一の判断基準だ。」と助言をいただきました。

 なるほど。今でもこの助言は正しいと思っています。

2.振り返ってみてどうだったか

 実際、進学してどうだったのか。目に見える利益はあったのか。

 結論、そのようなものはありません。

 数百万の債務を抱えます。
 承認欲求が満たされるわけでもありません。

 それどころか、私は学部時代のバイト先の店長に、大学院の入試に合格したら辞めさせてもらいたいと話すと「まだ遊びたいんだね(笑)」と言われました。
 笑って“そうですね(笑)”と言ったのですが、そんなんちゃうわ(怒)
 あ、そういえば。
 承認欲求ではないのですが、ただ一度だけ、「修士号があると国際機関で働けるからいいよね」と他人からうらやましがられたことがありました。
 私は国際機関で働く意思はなかったので、その利点は水泡に帰しました。

 また、教員免許は英語一種を取得しましたが、専修免許に格上げできる人文系の学位ではなかったので、修士課程への進学によって明確な利益を得られていないことは確かです。

3.そうは言っても

 それでも、大学院に進学できて、修士課程を修了できて良かった、と私は心から思います。
 大学院での時間は紛れもなく私の学生生活のピークでした。

 それは下記3点の理由からです。これらは大学(院)でなければ得られないものです。

① 自分が取り組んだ学問の成果をまとめることができた。
 成果を可視化できて大きな達成感を得られました。

② 知的好奇心を満たすことができた。
 興味に沿って論文や書籍を読み進め、学ぶ楽しみ・喜びをおぼえました。
 また、当時読んだ書籍は今でも議論の中で引き合いに出される名著であり、頻繁に話題にあがります。
 その結果、身に着けた知識や考え方で世間を見つめる切り口を得られました。

③ 学問とは何か、自分の専攻の意義を考える時間を得られた。
 学者・研究者もどきの生活を送り、勉強したものを世の中にどう還元するか、本気で考えました。
 解があるわけではない問題であり、真剣に考えていた事実が若かりし頃の良い思い出として記憶に残っています。

4.なぜ今頃そんなことを

 なぜ今更20数年前のことを振り返るのか。それは最近、別の学位取得のために大学院進学を考えたことがあったからです。
 自分で本を読んで知識を得るだけでなく、しっかり“学問をしたい”と考えるようになっていました。
 学ぼうとする専攻は今の仕事と関係ないので、仕事している時間以外すべての時間を勉強(研究)に充てなければならないわけです。

 昔を振り返ると、自分が設定した研究テーマに沿って知識を仕入れていくわけですが、先行研究を調べる中で自らのテーマに沿う内容はほとんどないのです。
 無駄が多くなってしまうのです。

 語弊を恐れず言うと、広く知識を仕入れて既存の知見を知り、その中から“要”を知る訳です。
 そのためには多くの無駄を甘受せざるを得ません。
 本を読んで考えるための時間的余裕は不可欠です

 私は社会人の身分で、しかも業務の一環と言えない分野のために進学しても「この時間的余裕がない」という点は覆せない大きなハンデだと思い、諦めました。
 働く一日約8時間の時間を学問に充てられれば、かなり研究は進められると思うのですが。
 2~3年働いてから進学する、という意見も聞いたことがありますが、敢えて2~3年働いてから進学するという道はかなり困難だと私は思います。
 2~3年も働けばその道で才覚を発揮し始めるでしょう。
 進学する機運を逃してしまうのではないかと懸念されます。

5.もし大学院進学を検討しているなら

 そんな私も社会人として20年以上の経歴を持つのですが、その経験を踏まえて言えることは、金と時間に余裕があるなら大学院進学はオススメです。
 偏差値高い大学に入ると在学中は学力の高さを認められるかもしれませんが、卒業してからは学力以外で評価されることも多くなるので、学歴の影響力は徐々に弱まっていくことが一般的だと思います。
 入試が多様化している昨今の情勢なら尚更だと私は考えています。

 それでも、何かを勉強したという成果は生き続けると思います。
 自分のアイデンティティを形成します。
 その観点から大学院進学をオススメします。

 おせっかいを3点だけ。

①キャリア設計をしっかり
 博士課程に進学するのか、修士課程で就職するのか、可及的速やかに結論を出したほうが良いです。
 なぜなら、修士課程2年目は大忙しですから。
 修了後のキャリアに直結する専攻を選択した方が明確に進学のメリットを感じられます。
 しかし、仮に、私のように、職業の選択と専攻が違う場合は、それはそれで特異性が出ます。

②貸与型奨学金等の債務を負う覚悟を
 バイトで高密度のシフトを詰め込むことはできないでしょう。
 そのため、前述のとおり、私は数百万円の負債を負い、結果、返済に20年弱要しました。
 それでも後悔はありません。
 あの時でしかできないことでした。
 日本育英会には本当に感謝しています。

③過度に期待しない
 学位そのものが求められている場面があれば話は別ですが、学位そのものに求心力はありません。
 学位そのものに魅力があるのではなく、輝くのは学位を取得した自分自身の言動です。

 以上は私自身の経験を踏まえた私見です。

 今、大学院への進学を検討しているか、すでに進学している方々。
 うらやましいなぁ~。
 
 以上、長文をお読みいただきありがとうございました。