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モハマド・ラスロフ『グッドバイ』イラン、"国内で疎外されるなら国外で疎外される方がマシ"

モハマド・ラスロフ長編6作目。テヘランで出国ビザを求める若き弁護士ヌーラの物語。ジャーナリストである夫のことも含めて、ヌーラは当局によって弁護士資格の停止、唐突な家宅捜索など様々な嫌がらせを受けている。仕事がないので生活費を切り詰め(部屋の中は基本的に真っ暗)、箱を作る内職をしながら宝飾品などを売ってブローカーへの支払いに当てていた。おまけに彼女は妊娠中だが、自らが望んだとはいえ今ではポジティブに捉えられていない。すべてが真っ暗な状況でヌーラは、出国に向けてたった一人で準備を進めなければならないのだ。夫と一緒に出ていくはずなのに、二人分の署名を求められても、貴方には安静にしてて欲しいから別の人をよこしてと言われたときも、家を引き払ってホテルを借りるときまで、同行者を求められ続ける彼女はずっと独り。そんな彼女の心情を示すかのように、画面は薄暗く、顔に影が掛かっていることも多い。彼女のとこだけ暗かったり、逆に彼女の頭の上からだけ光が当たっていたり(それによって逆に顔に濃い影が出来る)、ライティングが非常に上手く設計されている。また、鏡を使って直接的に視線を合わせない画面設計も上手く、薄暗いエレベーター内で尋問されるシーンの息苦しさと孤独感は特筆に値する。極めつけは、開放的な屋上で煙草を吸ってると背景を飛行機が横切るシーンが二度登場するのだが、どちらも着陸機なのだ。これだけ手が届きそうなところに飛行機があるのに、絶対に離陸はしないというのが暗示的だ。

電車でほぼ同じネイルをした女性と向になってしまい、その女性の目の前でネイルを落とすというシーンがあったのだが、これはどういう意味があるんだろうか?あと、"衛星放送の受信機があるだろ?"と突然警察が侵入してきて罰金取られるというNHKの集金よりも悪質な嫌がらせシーンもあった。

・作品データ

原題:به امید دیدار
上映時間:105分
監督:Mohammad Rasoulof
製作:2011年(イラン)

・評価:70点

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