見出し画像

アンドレア・パラオロ『Monica』モニカの帰郷と静かな和解

アンドレア・パラオロ長編三作目。主人公モニカは美しい女性で、常に性的な目線に晒されている。彼女と男たちの関係性は、彼女が依存症的関係性に陥っているジミーへの電話やカムガールの仕事をしているシーンなど間接的な言及もあれば、冒頭のナンパや行きずりの男とのセックスなど直接的な言及もされている。あるとき、モニカは兄嫁ローラから連絡を受ける。かつて自分を捨てた母親ジニーの死期が近いらしい。しかし、映画はその確執の正体もモニカと母親との関係性もほとんど明示しない。アカデミー比の小さな画面には身体も顔も部分的にしか映らず、鏡による反射、ビーズカーテンや暗闇によって隠され、横顔を多用して視線も交わらない。ただただ静かに、モニカの行動を捉えることで、心情に寄り添っていく。そして、人間同士の繋がりはフィジカルな触れ合いだと言わんばかりに、セックスや風呂やビーチ、鬼ごっこ、写真撮影などでにおける"触れ合い"が強調される。あまりに静かすぎて、何もかも曖昧で深みが無さそうに見えるのは、"和解"に必要なものの欠如に起因しているのだろう。個人的には、"何があったか"ではなく、"何をするか"が重要だ、ということなのだろうと好意的に解釈しているが、深い溝があっさり埋まってしまうところに、監督は深刻な家族喧嘩とかしたことなさそうだなとは感じる。

モニカを演じるトレース・リセットはトランス女性であり、モニカも同じくトランス女性である。なので、母親はモニカが自分の子供であることに気付いてないか、気付いてないふりをしている。本作品の夢物語感はテーマから逃げているようにも見え、当事者にとって結構キツい部分もあるのではないかと容易に想像できてしてしまう。なんか、手放しには褒められないっすわ。

・作品データ

原題:Monica
上映時間:113分
監督:Andrea Pallaoro
製作:2022年(イタリア, アメリカ)

・評価:60点

・ヴェネツィア映画祭2022 その他の作品

2 . サンティアゴ・ミトレ『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』巨悪と戦う民間人ヒーローたち
3 . ロマン・ガヴラス『アテナ』"レ・ミゼラブル"のその後…
4 . マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』バリー・コーガンの無駄遣い
5 . アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『バルド、偽りの記録と一握りの真実』重症化したルベツキ病と成功した芸術家の苦悩
8 . ルカ・グァダニーノ『ボーンズ アンド オール』ハイウェイキラー的食人ロードムービー
9 . スザンナ・ニキャレッリ『キアラ』私たちは孤独、でも一緒
11 . ジョアンナ・ホッグ『The Eternal Daughter』母と娘についての"スーベニア"
14 . 深田晃司『LOVE LIFE』どんなに離れていても愛することはできる
15 . アンドレア・パラオロ『Monica』モニカの帰郷と静かな和解
16 . ジャファル・パナヒ『No Bears』そんなものは怖がらせるためのハッタリだ
17 . レベッカ・ズロトヴスキ『Other People's Children』"人生は短くて長いんだ"
20 . フロリアン・ゼレール『The Son / 息子』ある父と息子の物語
21 . トッド・フィールド『TAR / ター』肥大したエゴを少しずつ剥がして残るものは?
22 . ダーレン・アロノフスキー『ザ・ホエール』ある"巨大クジラ"の物語

この記事が参加している募集

映画感想文

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!