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「1日1小節、82日後にOp.10-4完成」演奏者に聞くーーぶっちゃけ、本当に初めて譜読みしたの?

フレデリック・ショパンの練習曲「Op.10-4」。これを1日1小節ずつ譜読みを進めれば、スムーズにいけば82日後には作品は完成する(はず)。
そんな思惑から「1日1小節増やせば82日後には全部弾けちゃってるはずOp.10-4」という企画を実行したのは、東京藝術大学4年の福岡拓歩さんだ。
4月23日から7月13日まで、1日たりとも欠かすことなく「1小節ずつ」譜読みをして、その様子をTwitterで毎日投稿。82日目に最終小節まで弾き切った。
こんな珍しい練習方法を採用した理由は?この練習方法は有効なのか?いやいや、元々弾けていたんじゃないの…?本人にアレコレ聞いてみた。(文責:桒田)

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東京藝術大学に4年次在学中の福岡拓歩さん。

始めたその日に、「やめられへん…終わったな…」と思いました

――この企画を始めたきっかけは?

自粛期間中に大阪の実家に閉じこもっているとき、YouTubeをよく観ていたんです。すると僕の師匠が「自粛期間中に、どれだけベートーヴェンのソナタをYouTubeにアップできるか」という活動をしていたのを見つけて。それに感銘を受けて、僕も何かやりたいなと思ったんです。でもさすがにベートーヴェンのソナタは、自分の実力では厳しくて…。
でも、やるからには毎日やりたい。「いつかやりたい」とファイリングしている楽譜の中から「10-4」を見つけて、「これを毎日1小節ずつ譜読みする、という企画ならできそう!」と思い、始めてみました。
いざ気軽にTwitterにアップロードしてみたものの、投稿した瞬間「これは途中でやめられへん…。終わったな…」という気持ちでしたね(笑)。

――それは、初日からウケがよかったから?

ウケに関しては、別にそこまででしたね。少しだけ「いいね」がつくくらい。
やっぱり、途中でやめられないじゃないですか(笑)。

――ぶっちゃけ、バズり目的ではなかったんでしょうか?ご自身のブランディング戦略とか…。

いいえ、そんなことはないです。「バズればラッキー」くらいです。
自粛期間中、新しく趣味を始めたり、特技を極めたりする人が多いですよね。だから、自粛期間後に自分に何も残らないのが嫌で…。
何か形にしたかったし、「10−4」なら必ず82日後には弾けているはず。自粛期間中のやる気を削がないためにも、始めました。

ーー「実を言えば、元々レパートリーでした」なんてことはないですよね…?

はい、それはないです(笑)。

81日目、「絶対この日が1番おもろいやろな」

――録画方法について、いつも一発録りでしたか?

それはさすがにできないですね…。練習中、いつも録画しっぱなしでした。その中で何回も弾いて、間違えてしまったら冒頭に戻るんです。その繰り返し。切り取り方によっては、失敗した演奏の音の余韻が入っている日もありました…(笑)。

――最も難しかった小節は?

29、30小節目です。右手部分、1拍ごとに跳躍するんです。重音のまま跳躍しないといけないので、すごく外しました…。自然なフレーズにするのが難しかったです。

――81日目、最後の一音だけ残していたので、めっちゃムズムズしました。

企画を始めたときから、「この日が1番おもしろい日になるやろうな」と思っていました(笑)。

――福岡さんの動画に、たくさんぬいぐるみが登場していたのも見どころ。61日目、福岡さんを見守るぬいぐるみが一気に増えましたね。

この日は、大阪の実家で録画する最終日だったんですよ。それまで、ちょこちょこと色んな場所にぬいぐるみを置いていたので、最終日だから全員集合させました。それ以降は、下宿先の東京で練習・録画していました。


「1日1小節」は、おすすめしません…しかし有効な側面も

――「1日1小節」って、珍しい譜読み方法のはず。この練習法については、どう思いますか?

ぶっちゃけ、おすすめはしません(笑)。
やっぱり、82日間で完璧に弾けるようにはなりません。本番で弾くならもっと練習しないといけない。苦手なフレーズも苦手なままだし、「自分のもの」にするにはさらに時間が必要ですね。

――小節が進むごとに、中だるみはありましたか?

だんだんしんどくなってきました。自分の中で「わーーっ」と思い始めたのは、20日目を超えたあたり。動画を回している時間やミスが増え始めて。その時期は、まだ全体的にも手が慣れているわけでもない、でも小節だけは伸びていく…という中途半端なときでした。

――毎日同じ作品を練習していると、調子が良いときもあれば、悪いときもあるはず。いわゆる「雑な演奏」になったりしましたか?

もちろんありました。
毎日、「夜11時頃にアップロードする」ことを自分の中で決めていたんですが、それに間に合いそうもなく「今日はやばいな」という日もある。それでも、11時には投稿したい…。
だから、正直少し妥協してしまう日もありました。でも完璧を求めすぎるといつまで経っても投稿できないし、他にも練習しないといけない作品がある。だから自分が納得するラインまで頑張ってから、アップしていました。

――「この練習法だからよかった」というメリットはありましたか?

うーん…。「弾けるようにはなった」ということです(笑)。しかしダラダラと練習するより、「必ず82日目には弾けるようになるぞ!」と継続する根気を得ることはできたと思います。
あとこの練習方法って、「どこの小節も無視できない」という特性があるんです。作品全体を見据えて練習するよりも、毎日1小節ごとに「何が起きるのか」を明確にしながら進めることができる。近い距離で作品をじっくり見つめることができるんです。だから、今では「俺は全部しっかり見たぞ!」という気持ちですね。あまり大曲では経験できないかも。

――「1日1小節」を終えたことで、練習曲を弾く上で「やっぱりこれが自分には合っているな」と思う練習方法は?

やはり必要なのは、作品の全体像を先に知っておくことです。だから、ゆっくりと全て弾けるようになってから、少しずつ速くしていく。この練習方法が僕に1番合っているし、有効な近道だと思います。

人間味溢れる、親しみやすい演奏家になりたい

――82日間続けてきて、やはり視聴数やフォロワー数は増えましたか?

増えました。視聴数は、70日代までは1日500〜600回でした。しかし81日目になると一気にリツイート数が増えて、8000回ほど再生されましたね。最終日は、動画をアップした瞬間にリツイートといいねがバーーっと。その夜寝るまでに30,000回は再生されていました。
フォロワーも、企画開始当初は500人ほどでしたが今は900人を超えています。

――おそらく、たくさんの方が次の企画を期待していまるかと思います。「次は何をやってくれるんだろう…」と。次の企画は何か考えていますか?

また、この「1日1小節」企画をしたいです。まだ分かりませんが、やりたいと思っている作品は2つありますね。

――その作品とは…?

それはまだシークレットです。楽しみにしていてください。

――今のところはTwitterだけでの活動ですか?近頃はYouTubeで活動しているピアニストも多いですよね。

僕の中で、まだYouTubeは敷居が高いんですよね…。YouTubeで活動しているピアニストの皆さんは、才能と影の努力がすごいんです…。それに比べて、僕はまだナヨナヨしています(笑)。

NGバージョンの動画もアップロードしたんですが、これは自分はバリバリと弾ける才能を持っているわけではないから。1日1日コツコツ続けることができた、人間味溢れる親しみやすい演奏家になりたいです。だからこそ、YouTubeには足を踏み出せないんですよ(笑)。でも、ステップアップしていつか挑戦してみたいと思っています。

僕にはまだまだ「この曲はすごい」「こんな背景があるからおもしろい」と思っている作品がたくさんあるんです。でも音楽に詳しくない人には、それが伝わりづらかったりする。だから、「1日1小節」のように、プラスアルファの要素を加えて、「沼にハマる」きっかけを作っていきたい。頑張ります!

ーー頑張ってください!ありがとうございました。

福岡 拓歩(ふくおか たくほ)
3歳よりピアノを始める。2013年、日本クラシック音楽コンクール全国大会第3位。日本クラシックオーケストラと共演。2014年、ピティナピアノコンペティションE級全国大会ベスト賞。2016年豊中音楽コンクール高校部門第1位。オーストリア、ザルツブルクモーツァルテウム音楽大学夏季アカデミーにてディプロマ取得。2017年クオリア音楽コンクール大学部門第1位。2019年 東京国際芸術協会主催海外音楽大学マスタークラス派遣助成オーディション合格。刈谷国際音楽コンクール ピアノ部門 優秀賞。現在ソリストとしてだけでなく、演奏会の企画運営や伴奏者として等、多方面で活動している。これまでに石嶺尚江、C・ソアレス、服部久美子、斎藤龍の各氏に師事。現在迫昭嘉氏に師事。東京藝術大学器楽科4年生。

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