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【連載】独裁者の統治する海辺の町にて

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過疎の漁師町がある政治結社組織に統治された。否応なく組織に組み込まれた中橋康雄は少女凛子と組んで親友の神学者登坂士郎を殺害する。組織の統治支配の恐怖のなかで康雄と凛子はどうなるの…
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独裁者の統治する海辺の町にて(23)

独裁者の統治する海辺の町にて(23)

え、もう一冊の手帳?ああ、安倉雅子が永川に託したやつね、まあ、それについて述べるのは後にしよう。おっと、昨晩空けたビール缶が床に落っこちた。また揺れやがった。窓が痙攣でもするように小刻みに振動している。6月は7回、そして7月は・・・12回だった。明らかに地震の頻度は高くなっていった。そして、不規則だが中に変な横揺れが混じるやつがある。漁師町だから誰もがこの異変に気づいているはずだ。なのに誰も口にし

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独裁者の統治する海辺の町にて(10)

独裁者の統治する海辺の町にて(10)

「止めて!」
例の倉庫にむかって湾岸を走っているとき、後ろから凛子が叫んだ。
バイクを止めると、あいつは後部座席からコンクリートの防護柵に飛び移り、そのまま浜辺に降り、海の方へ駆けていった。
おれは慌てて後を追った。
月の光が海の中のあいつを浮かび上がらせた。
砂浜に着衣が脱ぎ捨てられていた。
「風邪引くぞ」 おれは戻ってきた凛子に言った。
「はじまった」 あいつは悔しそうに言った。
おれは、とま

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独裁者の統治する海辺の町にて(6)

独裁者の統治する海辺の町にて(6)

おれは単車を飛ばして教会に向かった。
正直、むかついていた。凛子がおれの言いつけを破ったこともあるが、それは織り込みずみのことだ。このときのおれむかつきは、母親と澤地久枝に士郎の殺害に自分が関与していることを伏せて報告した己の卑劣さに向かっていた。いや、いま思えばそれは、そうせざるをえなかった自分の状況に対してであったかもしれない。

母はおれが党に入ったことを知らない。彼女が入院したのは2年前の

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