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【連載】独裁者の統治する海辺の町にて

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過疎の漁師町がある政治結社組織に統治された。否応なく組織に組み込まれた中橋康雄は少女凛子と組んで親友の神学者登坂士郎を殺害する。組織の統治支配の恐怖のなかで康雄と凛子はどうなるの…
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独裁者の統治する海辺の町にて(20)

独裁者の統治する海辺の町にて(20)

「ただ碧いだけの、何事もない海だった。あいつらがくるまでは」
おれはこの言葉を二度聞いている。一度目は、2年前の3月、おれが大学を卒業し、一時帰省していた時だ。親父は船の上でつぶやくように言った。その3ヶ月後、親父は「海難事故」で死んだ。そして、2度目が今日だ。士郎もつぶやくように言った。
「ただ碧いだけの、何事もない海だった。あいつらがくるまでは」
「おれは、その〈あいつら〉のメンバーだがな」お

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独裁者の統治する海辺の町にて(8)

独裁者の統治する海辺の町にて(8)

凛子に会ったのは2年ぶりだった。
おれはこの町に戻ったその日の夜に士郎の家に行った。父の死に関する情報と母の状況を聞くためである。その頃は凛子はすでに、組織の養成所に入っていたがその日はたまたま土曜で帰宅日だった。

「どうだい」九鬼は無表情に言った。
「なにがです」おれは、はぐらかした。
「変わっただろう」
細身の身体はそのままだが、その肢体にはしなやかな妖艶さが漂っていた。
「背が伸びましたね

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