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週刊!転地療養ノススメ:赤穂編

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色々あった「ホーム」レス作業療法士のただのたわごとのような私小説です.生きていることにどんずまりな人にちょっとでも役に立てれば幸いです.もちろん全てがフィクションです。転地療養、…
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#小説

季節、迷子をケアする

季節、迷子をケアする

ある日、いつものようにお昼過ぎに妻と散歩に出た。
アパートから出たすぐの通りをそのまま右へ行けば、海まで真っすぐのびる道だ。散歩に出るときは必ずと言っていいほど、右だ。右に行けばとにかく海に出ることができる。アパートから10分くらい歩いた一つ目の大きい交差点を渡ったあたりで、大声で泣いている子ども(4歳くらいかの女児)がいた。周りをみても保護者はいなそうだ。というか住宅地にもかかわらず周りに私たち

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大家さんとサイクリングにいく

大家さんとサイクリングにいく

随分とここから離れてしまっていたように感じる。それは前回本編を執筆した8月21日からおよそ2ヶ月の休載を経たからではない、と感じる。おそらくフランスに来てしまったからだ。随分と遠くに離れてしまった。赤穂の日々はあまりに眩しい思い出となってしまった。
あのアパートから見える水平線はもうここにはない。代わりに今この窓から見えるのはフランスの街並み。
これからの人生でおおよそ転地療養中の赤穂ほどのゆった

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兵庫県は須磨・垂水を訪ねて①

兵庫県は須磨・垂水を訪ねて①

この日も平日の仕事をなんとかこなし(もちろん安宿→職場→安宿の往復運動が中心の悪夢のような日々、以後、この往復運動を–100%〈マイナス100パーセント〉と呼ぶことにする)、週末に海沿いのホーム探しという気の遠くなるような毎日を送っていた。

次に、私たち四国ではなく京都から見ると少し手前に位置する兵庫県須磨周辺を見てみることにした。

須磨には高校時代の友人のスマ君も住んでいたし、久しぶりに彼と

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海沿いの街めぐり・岡山は牛窓に行ってみる

海沿いの街めぐり・岡山は牛窓に行ってみる

結局、愛媛は単なる旅行に終わった。夏目漱石の小説で読んだ街とは違って随分栄えた都会だ。特に宿泊したホテルの周辺は夜の繁華街で柄の悪そうなムチムチストレッチパンツをはいた居丈高そうな人たちで溢れている。

それもそのはずで漱石が英語教師として松山に赴任したのは明治28年らしく、1895年、今からはるか昔のことだ。まぁ漱石は1年しか滞在していないらしいが。

ともかく、私は日本のエーゲ海と呼ばれる牛窓

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愛媛に行ってみる

愛媛に行ってみる

私たちはまず旅行がてら愛媛県へ向かった.愛媛出身のおおらかな知人もいたし、温暖な気候と何より海があった.宇和島にある海沿いの民宿を予約した.もう随分前のことに感じるが、そう、その時はコロナウィルスの感染拡大が徐々に広がっていた頃だった.

ただでさへ人が少なそうな所へ来て、当時まだまだ詳細不明のウィルスが流行し出したとあって人はかなり少なかった.

予定していた韓国旅行をキャンセルしたことも手伝い

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きっかけ

きっかけ

転地療養という言葉がある。
そのとき私は故郷の京都で完全に疲弊していた。
さまざまな災厄に巻き込まれて人生を再設計する必要に迫られていた。

そんなときに思いついたというか,もはやその選択肢しかなかったのが転地療養だった.

最初は半信半疑だった.住む場所を変えたくらいで変わるものか!?という気持ちもあったし,転地療養は効果がないどころかテレンバッハによれば引越しを契機に発症する「引越しうつ病」な

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