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2021年12月の記事一覧
【掌編小説】電波塔に上って
「はぁ……」
カタカタとパソコンのキーボードを叩きながら、向かいの席の後輩の田中が大きく溜息をついた。人の気配の少ないオフィスでは小さな呟きもやけに大きく響き渡る。今日は年末の挨拶回りもかねて得意先への訪問予定があったため、自分も彼もオフィスへと出社していた。ずいぶんとあからさまに大きな溜息をつかれてしまうと、さすがに反応しないわけにもいかない。
「どーした、そんな大きく溜息をついて」
パソ
【掌編小説】星降る夜に
「わたしね、1年の中で今が一番好きかも」
ふとした拍子に彼女はそうつぶやいた。なんで? という疑問の言葉を僕が発する前にひゅう、と冷たい風が吹きぬける。僕は悪寒と共に言葉を飲み込み、ぶるりと震えて首元のマフラーを巻き直す。
「寒い?」
僕の隣を歩く女友達の芹沢悠香がこちらに目をやって気遣わしげに聞いてきた。いや大丈夫、と言おうとしてくしゅん、とくしゃみをしてしまう。強がる気持ちとは裏腹に