石鹸と読書
固形石鹸で身体を洗うのが日課だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
温泉旅館のラウンジで一人読書に耽る。
用意された浴衣は丈に合わせて選んでみたが、どうも大きすぎるヒップとウエストが収まりきらない。紺色の羽織でごまかしてみるが、焼け石に水だ。
アメニティはボディソープだった。
液体石鹸で身体を洗うのもまんざらではないが、どうも相性を選んでしまうので自宅から今使っている愛用の石鹸を持ってきていた。
ボディソープは肌に合わない。
そのことを、ほんの軽い気持ちでとある男に話したことがある。
彼は次のように語っていた。
「そりゃあ、あなた自身が過敏で繊細だからですよ。それを分かってないからそうなるんです。私なんてアレですよ、肌に合わないと分かったら即刻撤退しますよ」
ラウンジで一人静かに書物に浸っている今、彼の言っていることは真理だったと感謝している自分がいた。
「泉洋市エッセイ集 固形石鹸」
あの時の男の名前。男は物書きだった。
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